倉阪鬼一郎

叙述トリックの隠された動機

松山俊太郎翁は『綺想礼讃』のなかで「『密室殺人』の何割かは作者のエディプス・コンプレックスを隠された動機とするだろう」と述べている。つまり密室は母胎のシンボルであって、被害者に擬された父をそこで殺すことで、作者はひそかな願望を満たすという…

『O嬢の物語』の叙述トリック

倉阪鬼一郎さんのミステリには「壮麗な館らしく描写されたものが実は〇〇だった」というのがかなりある。講談社ノベルスで出たもののうち半数以上はそうではなかろうか。いっぽうレア―ジュの『O嬢の物語』『ロワッシーへの帰還』の二冊からなるO嬢二部作も、…

氷沼紅司の書斎にて

『游牧記』といえば、『虚無への供物』に出てくる氷沼紅司の書斎には、五冊揃いの『游牧記』が秘蔵されているそうだ。ヴァン・キュイは出てくる気配はなかったが、こういう青い薔薇級の珍品があらわれるのだからやはり氷沼邸は一味違う。最終号が一種の合併…

クラサカ風の館

生の館作者:マリオ・プラーツみすず書房Amazon 倉阪鬼一郎さん、日本歴史時代作家協会賞受賞おめでとうございます! 今日はそれを祝してクラサカ風の館の話をしましょう。 倉阪さんのミステリの中には「立派な館かと思ったら実は〇〇だった」というのが何冊…

火星ラストソング読了!

火星ラストソング作者:倉阪 鬼一郎アドレナライズAmazon 電子書籍限定作品というからさぞ難解で前衛的な作品なんだろうなと思ったけれど、まったくそんなことはなかった。普通の形で出ても全然おかしくない作品である。物語はまるきりSF調で、最初のうちはP.…

火星ラストソングを読み始める

火星ラストソング作者:倉阪 鬼一郎発売日: 2019/11/27メディア: Kindle版 必ずしも道は平坦ではなかったが、特にアドレナライズの本がkindle cloud readerに対応していないのが痛かったが、いやそもそもアマゾンはあまり利用しないので使い慣れていなかった…

決断の時

火星ラストソング作者:倉阪 鬼一郎発売日: 2019/11/27メディア: Kindle版 倉阪鬼一郎さんの『火星ラストソング』を読みたくてたまらない。二年前に出た本らしいのだが、今まで全然知らなかった! 電子書籍でしか売っていないからだ。電子書籍は今まで避けて…

爺が読んでも面白い

からくり亭の推し理 (幻冬舎時代小説文庫)作者:倉阪 鬼一郎幻冬舎Amazon なぜ倉阪家の奥方は売れゆきの足をひっぱりそうなことしか言わないのでしょう。よほど根深い恨みでもあるのでしょうか。でもこれは実は半七捕物帳の好きなおじいさまがたが読んでも唸…

特殊ミステリの先達

*ニッポン硬貨の謎 エラリー・クイーン最後の事件 (創元推理文庫 (Mき3-6))作者: 北村薫出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2009/04/20メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 2回この商品を含むブログ (33件) を見る* 「龍を探せ」を読んでいるうちに、これ…

からくり亭の推し理

なんということでしょう。バカミスの波が時代小説にも押し寄せるというではありませんか。今までのんびりゆったりクラサカ時代小説を楽しんでた老若男女のファンの周章狼狽・悲憤慷慨は一体いかばかりでしょう。思うだに同情の念を禁じえません。その問題作…

confidential agent

ここ何日か、謎の黒猫の来訪を受けている。帰宅してドアを開けようとするとかならず隅にいる。毛並みがつややかで、こちらが近づいても逃げようとせず、もの問いたげなまなざしを向けてくる。その落ち着きは野良猫にはないものだ。どこからか逃げてきたのだ…

ジャンルクラサカ

虚構の男 (ドーキー・アーカイヴ)作者:デイヴィス,L.P.国書刊行会Amazon最初の40ページくらいまで読んで「これひょっとしてハルヒかな?」と思ったけれど、最後まで読んだらクラサカだった。と書いてもネタバレにはならないはずだ。というか、これ読んでない…

クラニー本消滅の危機

* 10/9のWeird World 3を見てびっくり。なんと倉阪鬼一郎さんの私家版を販売していたマイブックルが近くサービス終了するため、下記の4冊は今月末までに買わないと永遠に手に入らなくなるとか。 * ふるふると顫えながら開く黒い本(第一散文詩集) 何も描…

年に一度のお楽しみ

*八王子七色面妖館密室不可能殺人 (講談社ノベルス)作者: 倉阪鬼一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2013/09/05メディア: 新書この商品を含むブログ (3件) を見る* 待ちに待った年に一度のバカミスがいよいよ登場! 表紙のなんともいえぬ脱力感(←褒め言…

クラニーの浸透と拡散

*夢のれん 小料理のどか屋 人情帖8 (二見時代小説文庫)作者: 倉阪鬼一郎出版社/メーカー: 二見書房発売日: 2013/05/24メディア: 文庫この商品を含むブログ (1件) を見る* 本の雑誌7月号を開いて少しのけぞる。「クラニーファンが絶賛する書き下ろしシリー…

福袋合宿

* MYSCONの受付がはじまっているようです。ところが現時点では公開可能情報が極端に少ない。いったい何が行われるのか、すべては秘密の帳のなかです。まるで福袋みたいなイベントですね。これが倉阪さんの小説なら、誰も生きて帰れないところですが……。 い…

息子帰る

本日予定されていた魔造酒の会(仮称)が急遽中止に。醸造が間に合わなかったのだろうか、それともついに官憲の手が伸びたのか。代わりにずいぶんご無沙汰していた百日咳の会(仮称)のほうに出席。「『猿の手』の菊池寛訳が発見されるのがもう少し早かった…

すごいもの

命のたれ 小料理のどか屋 人情帖7 (二見時代小説文庫)作者:倉阪 鬼一郎二見書房Amazon すごいものを見た人がいるらしい(ここ)。そ、そんなにすごいのだろうか……。一度でいいから拙豚も見たいものだ。 それはともかく、今度の『小料理のどか屋人情帖』は、…

終末状況

不可能楽園 〈蒼色館〉 (講談社ノベルス)作者:倉阪 鬼一郎講談社Amazon 読んだ。そしていつものことながら完膚なきまでに打ちのめされた! 途中まで、冒頭で葬式が行われた人物が実は生きていてそいつが首謀者!とか考えていた。しかしそもそもクラニー作品…

南柯の夢ふたたび

むかしむかし、「TVは世界人民の敵だ!」という貼紙を貼った古書店が早稲田にあったころ、『幻想卵』という同人誌があった。いや、あったらしい。現物は一度も目にしたことはなく、ただ古老の噂話に聞くのみ。倉阪鬼一郎さんがここに発表した作品のいくつか…

クラニー先生の10作

ひさしぶりに某巨大掲示板をのぞいたらなんと「本の雑誌がクラニー特集」と書いてあるではないか。おおこれは一大事、と感激してさっそく本屋に走った。「本の雑誌」を買うのはたぶん三年ぶりくらいではあるまいか。この雑誌は良くも悪くも活字中毒者による…

羽化

*五色沼黄緑館藍紫館多重殺人 (講談社ノベルス)作者: 倉阪鬼一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2011/09/07メディア: 新書 クリック: 6回この商品を含むブログ (13件) を見る* 「どんどんバカになってますが大丈夫でしょうか」と、奥方が心配のあまり気も…

手招く美女

某嬢といえば幻想文学界隈では知らぬものとてない神秘的な美女であるが、その某嬢から招待状が来た。しかも速達で。封を開くと、「聖なる邪神」とか、「恐怖と狂気への誘い」とか、「心してご来場を」とか、いろいろ剣呑なことが書いてある。まことに怪しさ…

真理は時の娘

花斬りー火盗改香坂主悦(3) (双葉文庫)作者:倉阪 鬼一郎発売日: 2010/09/16メディア: 文庫前世紀の終りころ、さる学者の方が、「読む本は年齢に応じてライトノベル→ミステリ→時代小説と変わる」という説を唱えたことがあった。その説に次のように反論した…

まただまされた。

*新世界崩壊 (講談社ノベルス)作者: 倉阪鬼一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/09/07メディア: 新書 クリック: 12回この商品を含むブログ (14件) を見る* まずは帯に苦言を呈しておきたい。 『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』が受賞したのは「バカミ…

薔薇ととらんぷ

*薔薇の家、晩夏の夢 (創元クライム・クラブ)作者: 倉阪鬼一郎出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2010/06/24メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (6件) を見る* 薔薇の咲きほこるその丘には二軒の邸宅が建っていた。上の方に住んでいる…

いたるところに青山あり

*忍者ルネッサンス!作者: 倉阪鬼一郎出版社/メーカー: 出版芸術社発売日: 2010/02/01メディア: 単行本この商品を含むブログ (7件) を見る* ここをご覧になっている諸氏は猫又の又五郎をご存知だろうか。そう、ワンダーランド in 大青山 (集英社文庫)に登場…

世界バカミス☆アワード

倉阪先生、おめでとうございます! 拙豚は鬼畜系が苦手なので今回は予約しなかったけれども、やはり行けばよかったかもと今ちょっと後悔している。

これには驚いた。

*三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 (講談社ノベルス)作者: 倉阪鬼一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2009/09/08メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 104回この商品を含むブログ (33件) を見る* ついに読了。昨日、一昨日と得々とここに書いてきた推理(?…

実地検分?

三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 (講談社ノベルス)作者:倉阪 鬼一郎講談社Amazon なお読書中。いま五人目の犠牲者が登場したところ。犯行現場に規則的に並ぶ赤と青、それから寄り集まったり点在したりする黄色の正体はなんとなく分った。でも肝心の小窓の謎が…