澁澤龍彦

ヨーロッパに船出する高丘親王

『みすず』の読書アンケート特集を見ていたら、宮下志朗氏が『高丘親王航海記』の仏訳をあげておられました。仏訳が去年出てたんですね。全然知らなかったので驚きました。ちなみに訳者は先に『ドグラ・マグラ』を訳されたパトリック・オノレ氏です。検索し…

S蔵書との照合

「プヒプヒ版・奇想天外の本棚」の中で、澁澤龍彦蔵書と共通しているものはどれくらいあるだろうと思って調べてみた。雨の降る朝にはついこういうことがしたくなる。結果は十二冊中五冊。ただしベレンの本で澁澤書庫にあったのは『サバトの女王』ではなく『…

マッコルラン・コレクション2

待ちに待ったマッコルラン・コレクションの第二巻が出た。今度の表紙は赤天鵞絨である。もしかしたら『黄色い笑い』が黄天鵞絨だったように、集中の「薔薇王」にちなんだ赤なのかもしれない。すると第三巻はどうなるんだろう。タイトルからすれば黒天鵞絨に…

怪作コレクション堂々開幕

まずは帯に目をみはる。どなたが編集を担当されたかは存じあげないが、「天下のシブサワが敬意を表しているのだからお前らも皆こぞって敬意を表するがよい!」と言わんばかりの帯ではないか。もちろん不肖わたくしも敬意を表するにやぶさかではない。はるか…

ボーイ・ミーツ・タネムラ!

澁澤龍彦に女性ファンが群れをなしているのに比べると、種村季弘には、池田香代子氏などの貴重な例外をのぞいては、野郎どもばかり群がっているような印象がある。 なぜだろう? やはりペニスケースをつけて踊ったり、湯上りのセミヌード写真を著者近影に用…

ひたむきな三島由紀夫(1)

「折ふし夕べにシャーロック・ホームズを思う/これはわれわれに残されたよい習しだ (Pensar de tarde en tarde en Sherlock Holmes es una / de las buenas costumbres que nos quedan.)」とボルヘスは歌った。ならば折ふし夕べに三島を思うことも、われわ…

アンソロジーの終わりかた

怪奇小説傑作集4<フランス編>【新版】 (創元推理文庫)作者:G・アポリネール 他東京創元社Amazon 澁澤龍彦の編纂による『怪奇小説傑作集4』はアンソロジー史に残る名アンソロジーだと思う。と言うと一知半解の徒は「あれはカステックスのアンソロジーが種本…

魔界参入

ついにわが陋屋にも到来した美の司祭四人の饗宴! 漏れ聞く噂によれば、白玉楼中で憩っていた澁澤を降霊術でむりやり召喚して作品選択をさせたのだという。えらい迷惑な話のような気もする。たぶん「まあ蔵書目録や伝記の恩もあるからな」としぶしぶ応じてく…

シブサワ大激怒!

文学フリマに行ってまいりました。一番のお目当ては高山宏ロングインタビューが掲載されている「機関精神史」。漏れ聞く噂によれば「商業誌ではふつう削除されるような赤裸々なことも平気で載せてある」らしいので、楽しみにしていたのです。 ページを開いて…

わが創元推理文庫神7(その3)

神7の三番手はこれ↓。このシリーズから選ぶとすれば1巻か4巻しかありえない。残りの2、3、5巻は収録作品が少々変わっても全然アリだが、この二巻だけはそれは(順番も含めて)動かせない。仮に将来、『世界推理短篇傑作集』みたいに新版が出るとしても…

シブサワなう

『カラマーゾフの兄弟』中のゾシマ長老伝のはじめのほうに、二十歳前に結核で夭折した長老の兄マルケルのエピソードがでてくる。その兄は死ぬ一か月前にこんなことを言ったそうだ。 「お母さん、泣かないでください。人生は楽園です。僕たちはみんな楽園に住…

一考さんの鍵

澁澤龍彦はアンドレ・ブルトンから一本の鍵をもらったという。かくいうわたしも、むかしむかし、渡邉一考さんから一本鍵をもらったことがある。ほかに革ジャンパーももらったけれど、そちらは今の話に関係がない。まだ一考さんが赤坂見附の「ですぺら」でマ…

一本の毛の問題

ドラコニアの夢 (角川文庫)作者:澁澤 龍彦KADOKAWAAmazon乱歩謎解きクロニクル作者:中 相作言視舎Amazon 先に触れた『ドラコニアの夢』には、「江戸川乱歩『パノラマ島奇談』解説」も収録されている。これは角川文庫が宮田雅之の切り絵を表紙にして乱歩を出…

大予言

書物の宇宙誌―澁澤龍彦蔵書目録国書刊行会Amazon 澁澤の(乱歩みたいな)魅力が、今後も若い人のあいだに読み継がれるあろうと昨日書いた。でもそれは2006年、『澁澤龍彦 書物の宇宙誌』ですでに予言されていたことだった。昨日の日記は実に十二年間の後塵を…

胡桃の中の世界

澁澤龍彦玉手匣作者:龍彦, 澁澤河出書房新社Amazonドラコニアの夢 (角川文庫)作者:澁澤 龍彦KADOKAWAAmazon 澁澤龍彦はあまり人間という感じがしない。古生代の虫を封じ込めた琥珀。蜃気楼を吐く大はまぐり。スカラベに埋められた糞玉。そういうたぐいのもの…

シブサワさんなら喜ぶかも

とある碩学が澁澤龍彦の初期の訳文をこんなふうに批判している。 「外面如菩薩内心如夜叉とは、あたしのことなんだから(tu sais que la fausseté s'allie avec mon masque et mon caractère.)」 澁澤訳は、成句をつかいそこねて原意を伝えず、有害な仏臭さ…

蛸墨を吐く少女

ネクロフィリア作者:ガブリエル ヴィットコップ国書刊行会Amazon リュシアン・Nは親から相続した骨董屋をパリで営む孤独な青年。彼には不思議な性癖がある。ひそかに墓地を暴き老若男女問わず死体を家に運び込み、臥所をともにしてはセーヌ川に捨てに行くの…

赤い支那服の秘密

昨晩はもと薔薇十字社社主の内藤三津子さんにインタビューをさせていただいた。六尺豊かな大男の葬儀で踊る女たちのはなし、わが子をタツオと名付けて叱る父親のはなし、レストランのメニューを前に途方にくれる男のはなし、粉を吹いた白面の代理人のはなし…

独身者の機械

雪が止まない。今日はAin Soph/KBBのライブに行くべきか、ですぺらに行くべきか、それとも家でおとなしくしてるべきだろうか。どんがらがん (奇想コレクション)作者:アヴラム・デイヴィッドスン河出書房新社Amazon 「どんがらがん」収録短篇のなかでは、…

『澁澤さん家(ち)で午後五時にお茶を』 (種村季弘 学研M文庫)  ISBN:4059040061

「時間のパラドックスについて」…これは澁澤龍彦の『思考の紋章学』に収録されている名エッセイであるが、本書『澁澤さん家で…』で描かれた澁澤像は、まさにこの「時間のパラドックス」の体現ではないかと思う。 本書の全体は内容的に三つのパートに分けられ…