『名探偵の有害性』


 

桜庭一樹さんが『紙魚の手帖』の4月号から『名探偵の有害性』の連載をはじめた。これがめっぽう面白い。名探偵の有害性とは何ぞや。もちろん中にはメルカトル鮎みたいに、有害といってもいい名探偵はいるけれど……

舞台はパラレルワールド風の現代日本。この世界では前世紀末(90年代)に名探偵が警察の協力者として事件をバリバリ解決していた。やがてAIが犯罪捜査に使われるようになり、名探偵がAIに敗北し、名探偵の時代は終った。それから三十年後(ということは現代の2020年代)、「名探偵」という存在がかつていたことさえ若い人は知らなくなったころ、もと名探偵四天王の一人だった五狐焚風(ごこたい・かぜ)がかつての助手鳴宮夕暮のところにふらりと姿を見せる。夕暮はワトソンみたいに風の解決した過去六つの事件を小説化しているが、本になっていない第七の「語られざる事件」があった。他でもない、風がAIに敗北した事件だった。

おりしもYouTubeでVRのころんちゃんが「名探偵の有害性」を告発し、これがたちまち人気を集める。つまり超法規的な名探偵の特権性が許されざる悪として糾弾されているのだ。

このYouTubeを見た風はショックを受ける。弱者の味方であったはずの自分が強者として糾弾されているのだから。そこで風は助手の夕暮を連れて、過去の事件の関係者のもとに次々と赴く。いわば『舞踏会の手帖』風の枠組を持った話なのだが、主役二人は現代に問題を抱えているので、過去へのノスタルジーに終始するはずはない。今にとんでもないことが起こりそうで目がはなせない。

実は七番目の事件でAIの推理が間違っていて名探偵大復活! めでたしめでたし! というラストならいいのだけれど、どうもそんな感じにはなりそうにない。もっとリアリスティックに終わりそうな気配がする。さてどういう結末が待っているのだろう。