どうにもとまらない

叙述とフーダニットの両立

叙述トリックとフーダニットの両立という点で見逃せないのが、依井貴裕のある長篇である。ここではA,B,Cと三つの事件が語られる。ところがそれが叙述トリックで、実際はC,B,Aの順に事件は起こっている。そしてフーダニットの面からいえば、叙述に騙された人…

中国人問題

ロナルド・A・ノックス大司教いわく、 支那人を登場させてはならない。——なぜならないのか、その理由を説明するのはむずかしい。われわれ西洋人には支那人を目(もく)して、頭脳においておそろしく秀でており、道徳方面では冷酷単純である、という風に考える…

多重叙述トリック

超動く家にて (創元SF文庫)作者:宮内 悠介東京創元社Amazon 本格ミステリには『毒入りチョコレート事件』に(おそらく)はじまる「多重解決もの」というジャンルがある。たとえば貫井徳郎のある作品では、ある解決での探偵役が、次の解決では犯人にされる…

役割分担

神のロジック 次は誰の番ですか? (コスミック文庫)作者:西澤保彦コスミック出版Amazon 本格ミステリと叙述トリックの役割分担という点で興味深いのは西澤保彦の『神のロジック 人間 (ひと) のマジック』である。これは西澤保彦の数多い作品のなかでも屈指の…

敵ながらアッパレ

まだまだ続くミステリの話。誰も読んでないような気もするけれど、年寄りというのは物覚えが悪く、いったん思いついたことでも次の瞬間には忘れてしまう。だから忘備のためにここにメモしておくのである。さて、19日の日記で『聖女の救済』の叙述トリックに…

りんごジュースの謎

またまた昨日の続きである。どうもミステリの話をはじめると、わが身は山本リンダと化して、どうにもとまらなくて困る。それはともかく、昨日は、『聖女の救済』と『容疑者Xの献身』はほとんど同じ構造をしているのに、前者には「純粋本格」を感じ、後者は本…

『聖女の救済』はより本格か?

(これは一昨日の日記の続きです)『容疑者Xの献身』のトリックは途中で見当がついた。といっても推理でわかったわけではない。似たトリックを使った某長篇を前に読んでいたので「ああ、あの手か」と思ったにすぎない。ご存知の方も多いと思うが、この某長篇…

『容疑者Xの献身』再訪

(昨日の続き)日が暮れる頃にはやや回復したので、『CRITICA』のバックナンバーを読んで過ごした。これは『「新青年」趣味』『Re-Clam』『CRITICA』というミステリ評論同人誌御三家のなかでは、もっとも「熱い」雑誌だと思う。評される対象と評する人の距離…