火星ラストソング読了!


電子書籍限定作品というからさぞ難解で前衛的な作品なんだろうなと思ったけれど、まったくそんなことはなかった。普通の形で出ても全然おかしくない作品である。

物語はまるきりSF調で、最初のうちはP.K.ディックの作品を思わせる調子で進行する。しかし例によってどこか違和感のある描写である。なるほどいつもの倉阪叙述トリック小説なのだなと思ったが、実はどちらかというともう一つの系列だった。

本書最大の衝撃は結末近くで明かされる「火星ラストソング」の正体である。これには参った! これほど不意打ちでやられては降参するしかない。時代小説などで磨き上げられた倉阪テクニックが完全発動している。

そしてこのラストはあの伝説の怪作『ゴセシケ(合成脳の反乱)』を否が応でも思い出させる。日本人ならたいていの人は、特に年配の人なら「火星ラストソング」のラストに泣くと思うが(そしてこればかりは他の国の人には絶対にわからないと思うが)、とりわけ、幼少時のゴセシケ体験がトラウマになっていて、ああ、ゴセシケ! ゴセシケの感動をもう一度! と思っているゴセシケマニアは絶対必読の名作といえよう。