種村季弘

奇しき因縁2

老人といえばもう一つ思い出したことがある。昨年十一月のことだ。もう八か月も前のことなのでそろそろばらしてもかまうまい。その年の九月に出した『記憶の図書館』をめぐって『週刊読書人』で西崎憲さんと対談をした(西崎さん、その節はお付き合いくださ…

ボーイ・ミーツ・タネムラ!

澁澤龍彦に女性ファンが群れをなしているのに比べると、種村季弘には、池田香代子氏などの貴重な例外をのぞいては、野郎どもばかり群がっているような印象がある。 なぜだろう? やはりペニスケースをつけて踊ったり、湯上りのセミヌード写真を著者近影に用…

種村主犯説

種村季弘の『ビンゲンのヒルデガルトの世界』を読んでいたら、またもや「なんなら」の新用法にぶつかった。こちらは1994年の刊行だから、先日とりあげた『畸形の神』よりさらに早い。 ここでは「なんなら」は「場合によっては(ドイツ語でいうと unter Umstä…

「なんなら」新用法の起源

今日は目先を変えて基本日本語シリーズ第一弾(第二弾はたぶんない)。前にも一度取りあげた「なんなら」新用法の話である。 まずは旧来の用法をおさらいしておこう。 「なんなら」は伝統的には、「明日は雨だ。なんなら賭けてもいい」「俺は潔白だ。なんな…

松山俊太郎 『蓮の宇宙』によせて

松山俊太郎 蓮の宇宙作者:松山俊太郎太田出版Amazon 翁の講義は美学校に何度か潜り込んで謹聴したことがある。言葉もおそらくトータルで十語くらいは交わしていると思う。人は会わなければわからないということもないし、会えばわかるというものでもない。だ…

小児十字軍

この前西崎憲さんとお会いする機会があった。西崎さんは締切に追われて大変そうだった。その席で西崎さんはH.H.エーヴェルスのある短篇の話をしてくださった。それを聞きながらなにかひっかかるものがあったのだが、あとからふと気づいた。あれはシュオッ…

かや草に非ず、わすれ草なり

*古書無月譚作者: 尾形界而出版社/メーカー: 東京堂出版発売日: 1992/11/01メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (2件) を見る* 本の整理をしていたら『古書無月譚』が出てきたので、またまた読み返す。いままで何度読んだかわからないけれ…

存在しないものよ、御身が讃えられますように

私の書かなかった本作者:ジョージ・スタイナーみすず書房Amazon『私の書かなかった本』という題から、捨てられたアイデアやメモが雑然とまとめられた書物が連想されるかもかもしれない。たとえば星新一の『気まぐれ博物館』のような。だがそれは間違いだ。『…

『乱世綺譚集』版元在庫なくなる

藤原編集室のサイトが紹介してくださったこともあって、『乱世綺譚集』の版元在庫はなくなりました。コミケにも出せません。あとはマルドロールさんにあるだけです。それから今週金曜日にですぺらにも何冊か持っていくつもり。ただしですぺらの方は限定150部…

フリードリヒ・グラウザーI世閣下(1): 旅のはじまり旅のおわり

老魔法使い―種村季弘遺稿翻訳集作者:フリードリヒ グラウザー国書刊行会Amazon池田香代子氏は解説で、なぜ種村季弘は晩年にあれだけグラウザーの翻訳に入れ込んだのだろうと問うている。言外には「グラウザーみたいな大したこともない作家に」というニュアン…

壺中のミニチュアール

赤坂ですぺらがいよいよ本格始動をするらしい。オープンは11月23日……というと勤労感謝の日ですか。えーとこれは何かのギャグなんでしょうか? あのくらい「勤」とか「労」とかが似合わない店もないんじゃないかと……。それはともかく、胎道めいた暗いエレベー…

マゾッホ時代のゴシック・カルチャー

醜の美学作者: カールローゼンクランツ,Johann Karl Friedrich Rosenkranz,鈴木芳子出版社/メーカー: 未知谷発売日: 2007/02/01メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (11件) を見る くわしい感想をいずれ書くと言いながら放ったらかしにして…

実際にあったダイイング・メッセージ

id:lovelovedogさんが「実際にダイイング・メッセージを残した人物はいるのでしょうか?」と聞いているのでちょっと考えてみた。 まずダイイングメッセージの定義について。たとえば都筑道夫は、「黄色い部屋はいかに改装されたか?」の中で「被害者が息を引…

「本との出会い、人との遭遇」、その他

「クラニーが宅間守みたいと言われている」とか「島尾敏雄が少女を触りまくっている」とか某スレで噂の堀切直人「本との出会い、人との遭遇」を読んでみた。でもクラニーは「ちょっと宅間守っぽい」と言われてるだけだし、島尾敏雄だって別に体を触ったわけ…

『澁澤さん家(ち)で午後五時にお茶を』 (種村季弘 学研M文庫)  ISBN:4059040061

「時間のパラドックスについて」…これは澁澤龍彦の『思考の紋章学』に収録されている名エッセイであるが、本書『澁澤さん家で…』で描かれた澁澤像は、まさにこの「時間のパラドックス」の体現ではないかと思う。 本書の全体は内容的に三つのパートに分けられ…

『ビリッヒ博士の最期』

ビリッヒ博士の最期作者:リヒャルト ヒュルゼンベック未知谷Amazon チューリッヒ・ダダの立役者ヒュルゼンベックが1920年に発表した、ちょっとクラニー小説を思わせる自己処罰物語。ラップのようにせわしなく言葉が紡がれていき、まるで死に際のパノラマ視現…