2019-01-01から1年間の記事一覧

あとになって

新しく出た訳本をパラパラとめくるたびに、「あーしまった」と天を仰ぐ。今回の『イヴのことを少し』もはたして例外ではなかった。今回一番恥ずかしいのは、キャプションの訳である。'take over'というのはむろん「引き継ぐ」という意味で、こんなのは高校生…

2020年はキャベルイヤー

年明け早々、南條竹則氏の『幽』での連載をまとめた本が出るそうな。まことにめでたい。ゴーストリイ・フォークロア 17世紀~20世紀初頭の英国怪異譚作者:南條 竹則出版社/メーカー: KADOKAWA発売日: 2020/01/07メディア: 単行本言うまでもないことだが、この…

『イヴ』ついに発売!

J.B.キャベル『イヴのことを少し』がアマゾンで「在庫あり」になりました。どうぞこぞってお求めください。毎月の国書税が厳しい昨今ですが、版元でマニュエル伝を担当されている方に話をうかがったら、この『イヴ』は、「当社ではもっとも安い価格帯の本」…

文学フリマ収穫(その4)

その4は「サメねえちゃん」でおなじみのサメンバーさん待望の新刊です。なんと『サメンバーレポート』#4は「表記ゆれ」という肺腑を突く特集なのです。ここでは表記ゆれは校正の立場からではなく言語学的に考えられています。「あることばで表記ゆれが観…

文学フリマ収穫(その3)

その3はサークル「管弦楽団 響」さんの「クラシック冥曲案内 ハズす側の論理 ハース版最終稿」。アマチュアオーケストラで活躍されている方の本です。軽妙な文体でクラシックの名曲と名盤を紹介しています。執筆者の一人のお嬢さん(表紙画担当、通称画伯)…

文学フリマ収穫(その2)

文学フリマ収穫のその2は、柿内正午さんという方の「プルーストを読む生活」。これは何というか、ひょんなことから『失われた時を求めて』(井上究一郎訳)全巻を買ってしまった青年が、毎日少しずつそれを読みながらしたためている日記です。といっても内…

文学フリマ収穫(その1)

日曜の文学フリマに買い専で参加してきました。収穫その1としてご存知噴飯文庫の新刊。いつもそうですが商業出版してもおかしくないほどのクオリティです。表紙がすばらしいですね。吉邨二郎という人の絵だそうです。どこからこんな絵を見つけてくるのか………

ゲラが紛失する話

エイリア綺譚集作者:英理, 高原国書刊行会Amazon もうすぐ『イヴ』の再校ゲラが来るはずだ。来たら赤字を入れて送り返すのだけれど、こんなときいつも思うのは「これ途中で紛失したらどうしよう」ということだ。わがゲラはたいてい赤字が死ぬほどたくさん入…

わが解説作法

推理小説にはたまに「読者への挑戦」というものが挿し挟まれている。つまり、手がかりはすべて与えたから犯人を当ててみろと作者が読者に挑戦しているのだ。こういう挑戦は受けて立つほうである。紳士たるもの、白手袋で頬をはたかれれば拾わざるをえまい。…

魔界参入

ついにわが陋屋にも到来した美の司祭四人の饗宴! 漏れ聞く噂によれば、白玉楼中で憩っていた澁澤を降霊術でむりやり召喚して作品選択をさせたのだという。えらい迷惑な話のような気もする。たぶん「まあ蔵書目録や伝記の恩もあるからな」としぶしぶ応じてく…

『幻想と怪奇』の思い出

メディア: この商品を含むブログを見る 半世紀前の雑誌『幻想と怪奇』の傑作選が出るという。なんという素晴らしい企画ではないか! 今の人には『幻想と怪奇』は、われわれにとって『新青年』がそうだったような、名のみ聞く伝説の雑誌と化しているのではと…

外国語内外国語

ギリシャ棺の謎【新訳版】 (創元推理文庫)作者: エラリー・クイーン,中村有希出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2014/07/30メディア: 文庫この商品を含むブログ (5件) を見る 外国語で書かれた小説の中に、別の外国語が入っていることがある。たとえばエラ…

篠沢教授のチンチンチン

今回の『イヴ』の翻訳で一番の難関だったのが冒頭のソネットの翻訳である。「だった」とつい過去形を使ってしまったが、初校ゲラ時点ではあまり決定稿という感じはしない。とはいえ『ジャーゲン』冒頭にある謎の五行詩ほどは難しくはないと思うから、ここで…

最後的対話

中国の本もずいぶん手に入れやすくなった。なにしろアマゾンでぽちっとするだけでいいので止められない止まらないである。装丁もひところにくらべればずいぶんと垢ぬけてきたと思う。で、最近買ったのがこの『最後的対話』の二冊。この本は英独仏西版がすで…

全部買ってもいい

東京創元社さんから60周年記念ブックケースをいただきました。どうもありがとうございます。売り上げに全然貢献していない、それどころかきっと足を引っ張っているであろうわたしにまで下さるとは恐縮です。カシオの電子辞書がちょうど入る大きさなので重宝…

なのめに書き流したる

下の画像は特に名を秘す版元の、昔の本に挟まれていた愛読者カードだ。ここを見ている方なら「あああれね」とピンとくる方も多いと思う。 ごらんのとおり斜めになっている。印刷ミスではないようだ。意図的に傾けているらしい。古老の話によればこの本の新聞…

くとぅるーちゃんも驚愕

ただいま『イヴ』の初校ゲラと格闘中である。鉛筆で丹念に書き込まれた藤原さんの疑問出しを見ていると、こんなに手間をかけさせて申し訳ない、と思うと同時に、「オレってこれほど英語ができなかったんだなあ」という感慨めいたものも湧いてくる。還暦を越…

いわゆる差別語

翻訳をする上で、特に古い作品を翻訳する上で、いわゆる差別語の問題は避けて通れない。わたし自身はそういうものが出てきたときは、原則として穏当な語に言い換えることにしている。すなわち大勢順応主義である。スッタニパータというありがたいお経にも書…

サンリオ文への挑戦

サンリオSF文庫といえば裏表紙の紹介文が懐かしい。本のカバー等に記された内容紹介文は、本来その本への興味を持たせるために書かれるものであろう。ところがサンリオSF文庫裏表紙の紹介文には、そんな低次元の目的なんか気にしてたまるかとばかりに、ひた…

ヴァリスの訳注

サンリオSF文庫『ヴァリス』の訳注といえば、初読以来気にかかっているところが一か所ある。と書くと、「ああ、あそこね。うんうんわかるよ」とうなづいてくれるかたも何人かおられると思う。そう、ここである。 ちなみにこの「トラヴル」は創元推理文庫版*1…

風もないのに

ジャーゲン (マニュエル伝)作者:J.B.キャベル発売日: 2019/10/26メディア: 単行本『イヴ』の初校ゲラが来た。当分はこれにかかりきりとなるだろう。 それにしても毎度のことながら表記揺れの激しさには我ながらウンザリする。もちろん別に揺らそうと思って揺…

峯太郎ホームズの美点その他

山中峯太郎訳のホームズについては前にも書いたが、いまだその魅力から離れられず、とうとう古本屋でポプラ社版の安いのを見つけたら買うようにまでなった。病膏肓に入ったというべきか。フッフッフー。 峯太郎訳はたしかに超訳・怪訳には違いないのだが、わ…

「なんなら」新用法への期待

二松学舎大学・島田泰子教授の論文「副詞「なんなら」の新用法」をたいそう興味深く読んだ。特にこの論文の「はじめに」に記された、一般には誤用とされる用法への柔軟な対応はとても共感できる。この論文が指摘するように、近ごろは「なんなら」の伝統的で…

文学フリマ御礼

昨日は台風の近づく中、文学フリマ大阪に参加してきました。スペースに来てくださった皆さま、ありがとうございました。文学フリマは開催場所によってそれぞれ雰囲気が違うものですが、大阪の場合は溌溂というか、シャキシャキというか、浪速の底力を見せて…

ジーン・ウルフも負ける

キャベルのマニュエル伝を分担して訳している安野玲さんから、訳語のすりあわせについてメールをいただいた。そのメールによると、キャベル訳出はジーン・ウルフよりも大変なのだそうだ。ジーン・ウルフより大変とはすごいですね、と言うとなんか人ごとみた…

『幽霊島』の刊行に寄せて

幽霊島 (平井呈一怪談翻訳集成) (創元推理文庫)作者:A・ブラックウッド他東京創元社Amazon あなたが一流のレストランに行ったとしよう。コースを一通り堪能し、コーヒーを啜りながら、「ああ美味かった」と味を反芻しているとしよう。そんなときシェフが不意…

巨大豆本あらわる

巨大豆本 あらわるあらわる~ あらわれないのが小さい豆本です~ということで、大方の危惧のとおり、酷暑のせいもあって、『怪奇骨董翻訳箱』特典豆本はあられもなく巨大化してしまいました。本来ならここに画像を載せるべきかもしれませんが、あまりに大き…

豆本表紙完成

豆本表紙が完成しました。Thinkpadのポインティングデバイス(キーボードの真ん中にある赤いポッチ)だけで絵を描こうとするとかなり苦戦を強いられるということがわかりました。骨董箱の印税が入ったらペンタブレットを買おうと思ってます。

豆本応募御礼

豆本応募は結局締め切りまでに90近く来たそうです。応募して下さった皆さんありがとうございます。お盆休みの影響もあり(けしてコミケの影響ではないですよ?)皆さんへの発送は20日頃になる予定です。申し訳ありませんがいましばらくお待ちください。【8/2…

大いなる野望

ミステリーズ! Vol.96作者: 西崎憲ほか出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2019/08/09メディア: 単行本この商品を含むブログを見るじゃーん! 来月出る「ミステリーズ!」8月号にレルネット=ホレーニアの短篇が載ります。版元サイトの内容紹介欄でも堂々と…