黒死館蔵書
「ウン、たしかに心霊主義(スピリチュアリズム)だ」と検事が暗然と呟(つぶや)くと、法水はあくまで自説を強調した。 「いやそれ以上さ。だいたい、楽器の心霊演奏は必ずしも例に乏しい事じゃない。シュレーダーの『生体磁気説(レーベンス・マグネチスム…
「どうして、そんな散文的なもんか」と法水は力を罩めて云い返した。「所で、法心理学者のシュテルンに、『供述の心理学(プショロギィ・デル・アウサーゲ)』と云う著述がある。所が、その中であのブレスラウ大学の先生が、予審判事に斯う云う警語を発してい…
所が、意外にも、それが全然異なった形となって、伸子の心像の中に現われてしまったのだ。と云うのは、ラインハルトの『抒情詩の快不快の表出』と云う著述の中に、ハルピンの詩『愛蘭土星学(アイリッシュ・アストロノミー)』の事が記されてある。その中の一…
シャルコー神経学講義作者: クリストファー・G.ゲッツ,Christopher G. Goetz,加我牧子,鈴木文晴出版社/メーカー: 白揚社発売日: 1999/11/01メディア: 単行本 クリック: 7回この商品を含むブログ (1件) を見る 「だが、例証がない事もないさ。シャルコーの随…
「或は、そうかも知れんがね」と法水は莨で函(ケース)の蓋を叩きながら、妙に含む所のあるような、それでいて、検事の説を真底から肯定するようにも思われる――異様な頷き方をしたが、「そうすると、さしずめ君には、ピデリットの『擬容と相貌学(ミミック・ウ…
昨日に続いて、黒死館の下記の部分を巡る話。 「所でペンクライク(十四世紀英蘭の言語学者)が編纂した『ツルバール史詩集成』の中に、ゲルベルトに関する妖異譚が載っている。勿論当時のサラセン嫌悪の風潮で、ゲルベルトをまるで妖術師扱いにしているのだ…
昨日に続いて音楽繋がりで黒死館蔵書の話題を。ただこれも今のところ調査中のメモ。 所が、キィゼヴェッテルの『古代楽器史』を見ると、月琴(タムブル)は腸線楽器だが、平琴(ダルシメル)の十世紀時代のものになると、腸線の代りに金属線が張られていて、そ…
「黒死館逍遥」第二巻の発刊記念に、久しぶりに黒死館蔵書シリーズ。といっても今回は調査途上のメモ程度にすぎないけれど。 「そうだ熊城君、事実それは伝説に違いないのだ。ネゲラインの『北欧伝説学』の中に、その昔漂浪楽人が唱い歩いたとか云う、ゼッキ…
(以下は、素天堂氏の下記コメントに応えたものです) 貴重なご指摘ありがとうございました。虫太郎がクインシーの書からヒントを得てオッチリーエ暗殺説を構想したことは大いに有り得ることだと思います。国書の「ド・クィンシイ著作集」自体は手元にないので…
原題は、The History of Gustavus Adolphus, King of Sweden, Surnamed the Great. by the Rev. Walter Harte, M.A. 拙豚の所持しているのは1807年刊行の第三版である。 この本は虫太郎の座右の書だったらしく、黒死館の数箇所に登場している。最も効果的に…
副題は「実例を基にした、実務家のための、治療-および教育-暗示療法施術入門」。その書き出しは「催眠および暗示は殊に近年、教養ある人士ならば皆話題にしており、ほとんどスローガンと化していると言ってもいいほどだ(p.8)」となっており、催眠術に関する…
副題は「歴史および心理学における統計学的研究」。黒死館ではタイトルだけ登場する。 「いや、却って欲しいのはマーローの『ファウスト博士の悲史献』なんですよ」と法水が挙げたその一冊の名は、呪文の本質を知らない相手の冷笑を弾き返すに十分だったが、…
正式なタイトルは『ギリシアの文学および宗教の中のデモンの研究』。黒死館では第三篇第二部の図書室の場面に出てくる。 然し、魔法本では、キイゼヴェターの『スフィンクス』、ウェルナー大僧正の『イングルハイム呪術』など七十余りに及ぶけれども、大部分…
かくて黒死館は、エルンスト『百頭女』ISBN:4309461476と同質なコラージュ・ロマンと見ることもできよう。即ち他から採集してきた素材の切り貼りによって一篇の暗黒小説を作り上げようとする試みである。序文でこの小説を「夥しい素材の羅列」と喝破した乱歩…
この奇書について語るべきことは多い。しかし夜もだいぶ更けたことだし、今夜は虫太郎との関わりを少し触れるだけにとどめようと思う。黒死館では、この書は次のように引用されている。 次に、死後脈動及び高熱に就いては、絞首――廻転――墜落と続く日本刑死記…
黒死館では「丁抹史(ヒストリア・ダニカ)」という書名で言及されている本。いつ読み終えられるかわからないので、とりあえず面白そうな部分を引用せん。(引用文中の()は、原訳文のまま) こうしてゲートヴァーラの方がまず次のように口火を切った。 あなた…
場末の古本屋で均一本など漁っていると、まれに黒死館蔵書と同一タイトルの書を発見することあり。何たる奇縁! あるいは黒死館はかつて実在しており、今眼前にあるこの書はその流出本ではなからんか。かような妄想が湧きいずるを如何ともしがたし。 こころ…