2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

叙述トリックの隠された動機

松山俊太郎翁は『綺想礼讃』のなかで「『密室殺人』の何割かは作者のエディプス・コンプレックスを隠された動機とするだろう」と述べている。つまり密室は母胎のシンボルであって、被害者に擬された父をそこで殺すことで、作者はひそかな願望を満たすという…

あのタイプライターは売れたのか

きのうは久しぶりにぽかぽかといい陽気になったので国立まで足を延ばした。まずは三日月書店に寄って豊島與志雄の『秦の憂愁』『山吹の花』他何冊かを買った。勘定のついでにあのアラビア語タイプライターは売れましたかと聞いてみると売れなかったそうだ(…

検閲を歓迎(?)するボルヘス

小鷹信光氏といえばハードボイルドの名翻訳者・研究家として有名だが「ポルノ」という略称を日本語に定着させた人でもある(どこかの出版社が週刊新潮の氏の長期連載「めりけんポルノ」の完全版集成を出さないものだろうか)。その背景にはかのオリンピア・…

ふたたびタレコミあり

金沢から戻ってきた人からふたたびタレコミあり。昨日孫引きで引用したラルボーの書評は、その全文が国書刊行会『ボルヘスの世界』に高遠弘美氏の訳で載っているという。どれどれと見てみると本当にあった。 この『ボルヘスの世界』という本は、二十年以上前…

ボルヘス『審問』に驚くラルボー

先週の洋書まつりで買った本の中にヴァレリー・ラルボーの伝記があった。謎のダブリ本の群れの中の一冊である。著者はベアトリス・ムスリという人で1998年にフラマリオンから出ている。この本によればボルヘスはラルボーに『審問』を献呈したらしい。『続審…

川野芽生選書フェア

紀伊国屋書店で開催中の「『月面文字翻刻一例』刊行記念川野芽生選書フェア」、その中の一冊に『夜毎に石の橋の下で』を選んでいただきました。川野芽生さん、ありがとうございます。もう十年も前に出した本ですが、こんなふうに若い世代にも受け入れられて…

『本の幽霊』

先週洋書まつりに行ったついでに東京堂書店をのぞいたら西崎憲さんの新刊『本の幽霊』があった。奥付によれば9月30日の発行だったそうだが、不覚にも全然知らなかった! 冒頭の短篇「本の幽霊」の語り手はむかしロンドンの幻想文学専門古書店から届くカタロ…

『O嬢の物語』の叙述トリック

倉阪鬼一郎さんのミステリには「壮麗な館らしく描写されたものが実は〇〇だった」というのがかなりある。講談社ノベルスで出たもののうち半数以上はそうではなかろうか。いっぽうレア―ジュの『O嬢の物語』『ロワッシーへの帰還』の二冊からなるO嬢二部作も、…

田村書店の不思議な出品物

昨日と今日は洋書まつり。今回は三日月書店さんがアラビア語のタイプライターを出品している。もしかしてウケ狙い? それとも誰か買うのだろうか。例によって田村書店さんの本が奥の壁面のかなりの部分を占めている。今回は新品同様といった感じのフランス書…

Capicua

またボルヘスが訳せるといいな、今度は伝記を訳したいなと思いながら未練がましく西和大辞典をぱらぱらめくっているとcapicuaなる変な単語に出くわした。 ようするに岡嶋二人の山本山コンビみたいに、逆から読んでも同じになる単語や数字のことを言うらしい…