アンナ・カヴァン

ヴァージニア・ウルフを讃えて(1)

むかしちくま文庫で出た『ヴァージニア・ウルフ短篇集』が大幅増量されて帰ってきた。嬉しいことではないか。ウルフの短篇世界にどっぷり浸かれる機会がまた巡ってきたとは。 ボルヘスや澁澤には何らかの偏愛の対象がある。その対象は物すなわちオブジェであ…

旱魃世界

J.G.バラード『燃える世界』が『旱魃世界』というタイトルで山田和子氏の新訳で出た。なんと嬉しいことであろう。しかも今回はイギリス版のテキストが元になっていて、旧訳とは底本の段階で相当に異なる。 わたしは山田氏の「ついてこれない人は無理について…

砂糖菓子の弾丸

*傷痕作者: 桜庭一樹出版社/メーカー: 講談社発売日: 2012/01/12メディア: 単行本 クリック: 17回この商品を含むブログを見る* これもまたすばらしい作品だ。スーパースターが亡くなったあとの真空地帯にたたずむ少女とその周囲の大人の物語。直木賞を取っ…

どんな鞄?(5):末期のSF

歌うダイアモンド (晶文社ミステリ)作者:ヘレン マクロイ晶文社Amazon 『氷』はおそらくアンナ・カヴァンがはじめて書いたSFらしいSFである。世界が氷で覆われていく現象には疑似科学的な説明が与えられているし、混乱に乗じて「長官」が独裁国を作るといっ…

どんな鞄?(4):症例それとも伝説

氷作者:アンナ・カヴァンバジリコAmazon フランシス・キングによれば、カヴァンは「何かの老年病」で亡くなったという。そこでカヴァンの二冊の伝記のうち最初に出たほうを覗くと、検死の際の診断は"fatty myocardial degeneration (脂肪性心筋衰弱?)"だ…

どんな鞄? (番外:ユッキーご乱行の巻)

Yesterday Came Suddenly (Biography & Memoirs)作者:King, FrancisConstableAmazon フランシス・キングの回想録"Yesterday came suddenly"(1993)の発掘に成功。横島昇氏(郡虎彦の英文戯曲集を翻訳された方)の流麗な訳文による『家畜』が最近出たこの特異…

どんな鞄?(3)

Sleep Has His House (Peter Owen Modern Classic)作者:Kavan, AnnaPeter Owen PublishersAmazon 「長篇 『氷』 (67) は各方面から絶賛されるが、翌年に急死。ベッドの傍らにはヘロインの注射器が置かれていたという」みたいな作者紹介文を見て浮かび上が…

どんな鞄?(2)

氷作者:アンナ・カヴァンバジリコAmazon 『氷』のヴァリアント『マーキュリー』冒頭の引用句は、『恋の骨折り損』の最後のせりふからとられている――「アポロの歌のあとでは、マーキュリーの言葉も耳ざわりでしょう」(小田島雄志訳)。ここでマーキュリーと…

どんな鞄?(1)

Mercury作者:Kavan, Anna,Lessing, Doris MayPeter Owen LtdAmazon 『消え去ったアルベルチーヌ』と同じく、『氷』もヴァリアントが作者の死後に刊行された。すなわち1994年にPeter Owenから出た『マーキュリー(Mercury)』である。しかし不親切なことにド…