ジャンルクラサカ

最初の40ページくらいまで読んで「これひょっとしてハルヒかな?」と思ったけれど、最後まで読んだらクラサカだった。と書いてもネタバレにはならないはずだ。というか、これ読んでない人に結末をばらしても、多くの人は〈そんなバカな小説があってたまるかバカヤロー〉と思って信用しないのではなかろうか。ちょうど倉阪鬼一郎氏のある種の小説のように。

解説にはジャンルミックス作品とあるが、私の見るところ、これは「クラサカ」というジャンルの小説に他ならない。ジャンルミックスの他にも叙述トリック的プロットとか酷薄な結末とか。

ともあれチープな(←褒め言葉)道具立てのなかで読者をきっちり楽しませる誠実さと職人技が印象的な佳品である。「P.K. ディックみたい」と言った人もいたが、タイプとしてはディックと正反対な人だと思う。ディックはなんだかんだ言ってもヒューマニズムの人だが(たとえば『ヴァリス』の冒頭を見よ)、この作品のラストにはヒューマニズムのかけらもない。