2008-06-01から1ヶ月間の記事一覧

実は怖いのは苦手

すきま (角川ホラー文庫)作者:倉阪 鬼一郎角川グループパブリッシングAmazon『地獄』『ざくろの実』『ポドロ島』『デ・ラ・メア幻想短篇集』と最近あいついで出た英米古典怪奇小説を読んだあとでクラニ先生の新刊を読む――とあたかも舞台がつながっているかの…

フリードリヒ・グラウザーI世閣下(1): 旅のはじまり旅のおわり

老魔法使い―種村季弘遺稿翻訳集作者:フリードリヒ グラウザー国書刊行会Amazon池田香代子氏は解説で、なぜ種村季弘は晩年にあれだけグラウザーの翻訳に入れ込んだのだろうと問うている。言外には「グラウザーみたいな大したこともない作家に」というニュアン…

LPHの耽美な生活(2) 白鳥虐殺者の巻

ポドロ島 (KAWADE MYSTERY)作者:レズリー・ポールズ ハートリー河出書房新社Amazon 「ポドロ島」には理由らしい理由もなく動物を殺す人が出てくるが、その登場人物に似た行動をとるハートリー自身のエピソードがフランシス・キングの回想記に出てくる。 他の…

L.P.ハートリーの耽美な生活(1)

ポドロ島 (KAWADE MYSTERY)作者:レズリー・ポールズ ハートリー河出書房新社Amazon すでに相当むかしの話になるが、ロバート・エイクマンの本邦初短編集が今本渉氏の手により翻訳されたのは、この手の小説の愛好者にとっては稀に見る幸運ではなかったかと思…

ゾナ・ゲイルのこと(2)

Romance Island作者:Gale, Zona1st World Library - Literary SocietyAmazon ゾナ・ゲイルの伝記は、同郷の後輩オーガスト・ダーレス(後のデルレット伯爵)の手によって一冊の本になっている("Still Small Voice" 1940)……はずなのだが、そして確かに持っ…

ゾナ・ゲイル(1)

ざくろの実―アメリカ女流作家怪奇小説選作者:イーデス ウォートン鳥影社Amazon アメリカの女性作家たちの怪談集である。メアリ・ウィルキンス・フリーマン、ウィラ・キャザー、エレン・グラスゴー、イーディス・ウォートンと目次に居並ぶ淑女たちの名を見て…

どんな鞄?(5):末期のSF

歌うダイアモンド (晶文社ミステリ)作者:ヘレン マクロイ晶文社Amazon 『氷』はおそらくアンナ・カヴァンがはじめて書いたSFらしいSFである。世界が氷で覆われていく現象には疑似科学的な説明が与えられているし、混乱に乗じて「長官」が独裁国を作るといっ…

どんな鞄?(4):症例それとも伝説

氷作者:アンナ・カヴァンバジリコAmazon フランシス・キングによれば、カヴァンは「何かの老年病」で亡くなったという。そこでカヴァンの二冊の伝記のうち最初に出たほうを覗くと、検死の際の診断は"fatty myocardial degeneration (脂肪性心筋衰弱?)"だ…

クラシック・ミステリのススメ再版

池袋ジュンク堂3Fに堂々入荷!。初版と同じくシュリンクパック仕様ですので、きれいな本がほしいという方はこちらに。 * 地方の方はbk1でも買えるはずです。

どんな鞄? (番外:ユッキーご乱行の巻)

Yesterday Came Suddenly (Biography & Memoirs)作者:King, FrancisConstableAmazon フランシス・キングの回想録"Yesterday came suddenly"(1993)の発掘に成功。横島昇氏(郡虎彦の英文戯曲集を翻訳された方)の流麗な訳文による『家畜』が最近出たこの特異…

どんな鞄?(3)

Sleep Has His House (Peter Owen Modern Classic)作者:Kavan, AnnaPeter Owen PublishersAmazon 「長篇 『氷』 (67) は各方面から絶賛されるが、翌年に急死。ベッドの傍らにはヘロインの注射器が置かれていたという」みたいな作者紹介文を見て浮かび上が…

どんな鞄?(2)

氷作者:アンナ・カヴァンバジリコAmazon 『氷』のヴァリアント『マーキュリー』冒頭の引用句は、『恋の骨折り損』の最後のせりふからとられている――「アポロの歌のあとでは、マーキュリーの言葉も耳ざわりでしょう」(小田島雄志訳)。ここでマーキュリーと…