ポー

吉田訳ポーふたたび

悪漢と密偵さんのツイート(正確にいえば藤原編集室のリツイート)で、吉田健一訳ポーが中公文庫の一冊として出ることを知る。これは近来にない快事だ。世間もようやく吉田訳ポーの凄さに気づいたかムハハハハという感じである。ポー一流の沈鬱かつ淀みない…

ポーと乱歩

日本探偵小説全集〈2〉江戸川乱歩集 (創元推理文庫)作者:江戸川 乱歩発売日: 1984/10/19メディア: 文庫 ポーといえば乱歩である。少なくとも日本では。その乱歩が、ポーのストーリーを自己流に料理してみたいと思っていたということが、たしか『探偵小説四十…

続続吉田訳ポー

吉田健一訳ポーの特徴を見るためには、おそらく「アモンティラドの樽」の最後の一文が最適ではと思う。これの原文は For the half of a century no mortal has disturbed them. In pace requiescat! これを田中西二郎はこう訳した。 あれから半世紀、何者も…

時間からのポー

ポーといえば気にかかることが一つある。ツイッター界隈を流れる噂によれば、ラヴクラフトの "Colour out of Space" を「宇宙からの色」とか、"Shadow out of Time" を「時間からの影」と訳している本があるらしい。ツイッターというのはデマ生成装置みたい…

続松山翁とポー

モーセと一神教 (光文社古典新訳文庫)作者:フロイト光文社Amazon 松山俊太郎翁のポー解釈は、マリー・ボナパルトの『エドガー・ポー』の影響を受けていたように思う。ここでいきなり脱線すると、この『エドガー・ポー』といい、プシルスキーの『大女神』とい…

続吉田訳ポー

ポーの文章は重い石を積み重ねて城壁を作っていくような感じで、内容はともかくその文体が好きか嫌いかと問われると、まああれだね、ちょっと答えにくいところがある。 むかしむかし、松山俊太郎翁の講義、というか放談がまだ美学校で行われていたころ、佐々…

史上最強

東雅夫さんのこのツイートにはわが意を得た思いがする。「史上最強」というのはまったく同感。「中学時代、これでポーにハマりました」というのもまったく同じ。「赤き死の仮面」がにわかに注目をあつめるポオには、戦前から多くの訳書がありますが、一巻本…

明朗冒険活劇のまぼろし

世界名作探偵小説選作者:ポー,エドガー・アラン,オルツィ,バロネス,ローマー,サックス,雄一, 平山作品社Amazon 世にアホくさいものは数あれど、山中峯太郎翻案のシャーロック・ホームズくらいアホくさいものはたんとはあるまい。のんびりと正月に読書するに…

陥穽と振子

とある編集者の方のウェブサイトにあった「今月の予定」を、すごい仕事量だな相変わらず大変そうだなとか思いながらボーッとながめていたのだが、何秒かのタイムラグのあと、とつぜんハッと気がついた。「今月入稿予定が二冊」って、一冊は自分の担当なので…

熊虎奇聞

郵便局と蛇: A・E・コッパード短篇集 (ちくま文庫)作者:A.E. コッパード筑摩書房Amazon 明日は『郵便局と蛇』の発売日みたいなので、コッパードにちなんだ小ネタをひとつ。乱歩という人は感銘を受けた小説の場面を自作に紛れこませることがある。「虫」には…

あなたは読者で犯人

かくも水深き不在作者:竹本 健治新潮社Amazon 一人称で書かれたミステリで、犯人は「わたし」だったというものがある。クリスティの某作みたいな「記述者が犯人」とは違う。どこが違うかといえば、「わたし」自身も、自分が犯人であることを、探偵に指摘され…

ROM最新号

ROM最新号はデューセの翻訳をはじめとして、いつもにもまして読み応えがある。なかでも驚いたのは森英俊氏の「Book Sleuth」という連載。今回は山中峯太郎編〈ポー推理小説文庫〉なる珍本がとりあげられているが、これがすごいのなんの。たとえばこのシリー…

星界の果て

今日は「赤き死の消人栓」の日。さくら水産は学生がいっぱいでたいそうやかましい。素天堂氏らと、2ちゃん某スレの逃亡先はいったいどこにあるんでしょうね?という話になった。はてさて、第二ファウンデーションはいずこに?それにしてもポーの文章はすば…

シアワセじゃあねえっすよ!

×××HOLiC(3)(KCDX)作者:CLAMP講談社Amazon 「天気はいいし お弁当は美味しいし! シアワセね――」 「シアワセじゃあねえっすよ! すんげ――怒られたんすよ!」 (xxxHOLiC 3) 先週の土曜、ふたたび消人栓を望む部屋を訪問した。「xxxHOLiC」に出てくる店は一…

マニアが最も恐ろしくなるとき

ボルヘス伝作者:ジェイムズ ウッダル白水社Amazon マニアが最も恐ろしくなるときはいつか。いうまでもない、論争をするときだ。ボ氏の場合も例外ではない。相手は当時ブエノスアイレスにいたロジェ・カイヨワ。彼は当時弱冠二十九歳の新進社会学者で、対する…

平井功のポー論

噂のりきマガジン(仮)はすでに入稿済みという噂のりき氏。その氏が影のブレーンとなっているとおぼしき「日本の古本屋メールマガジン」が平井功の貴重なポー論を掲載している。(紹介文、第1回、第2回) ただこの文章は未完であるうえ、どういうわけか校…

裏切り者と英雄のテーマ

ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー ウ 31-1)作者:ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ発売日: 2008/06/28メディア: 文庫(注意!:作品の内容にある程度触れています)この作品と『ウロボロスの純正音律』とは共通点が二つある。ミステリの…

青い彼方

わたしたちは熟読した。グレッセの「鸚鵡のヴェールヴェール」と「シャルトル修道院」、マキャヴェリの『大悪魔ベルファゴール』、スウェーデンボリの『天国と地獄』、ホルベアの『ニルス・クリムの地下旅行』、ロバート・フラッド、ジャン・ダンダジネ、ド…

手が、手がっ!

平井功ポオ論(仮題)を校正していると、不思議や己が手が、何者かに魅入られたようにひとりでに動いて、新字を旧字に直していくではないか。 ああどうしたことであろう。何者かの呪いであろうか。またあの旧字地獄がすぐ目の前に迫っている。事態は予断を許…

使い回しヨク(・A・)ナイ

エドガー・アラン・ポー短篇集 (ちくま文庫)筑摩書房Amazon 『某』マイナス三号は平井功の英文学関連論文をお届けする予定。11月11日の文学フリマ刊行を目指して鋭意編集中。 その論文はポーの謎詩(アクロスティック)を扱っている。アクロスティックとは何…

怪訳対超訳

アルトー後期集成 1作者:アントナン・アルトー河出書房新社Amazon 酒場でこの本をぱらぱらしていたらアルトー訳エドガー・アラン・ポー「イスラフェル」なるものが出てきた。その凄まじい超訳ぶりにぶっとぶ。日夏耿之介の「イスラフェル」も怪訳だったが、…

L氏と乱歩

「……ポオの短篇の内で、前々から是非使って見たいと思っていた筋が二つある。一つは『ホップ・フロッグ』もう一つは『スフィンクス』である」と乱歩は『踊る一寸法師』の自作解説で述べている。『ホップ・フロッグ』からは『踊る一寸法師』が生まれたが、乱…

縞に関する疑問 (Question de la Strie)

村山槐多耽美怪奇全集―伝奇ノ匣〈4〉 (学研M文庫)作者:村山 槐多学研プラスAmazon 疑問といっても別に縞パンツは縦縞であるべきかそれとも横縞かといったようなことではない。だいいち縦縞パンツなど想像することさえできないという御仁もおられよう。そうで…