新保・法月往復書簡と『迷いの谷』

 

光文社の電子雑誌『ジャーロ』で連載されている〈新保博久⇔法月綸太郎 往復書簡「死体置場で待ち合わせ」〉は、新保氏の博覧強記と法月氏の奇想が火花を散らす無類に面白い読み物です。これをひときわ面白くしているのはどちらも名探偵であることで、さしずめ新保氏がファイロ・ヴァンスなら法月氏はブラウン神父というところでしょうか。ファイロ・ヴァンスとブラウン神父の対決! これが面白くならないわけはありません。

この往復書簡は『ジャーロ無料試し読み版』で全文読めますが、無料で読むのはもったいないくらいのもので、単行本化されたなら絶対に買おうと思っています。

最新号No.89では『迷いの谷』がとりあげられていて、ひときわ興味深く読みました。

なぜ都筑道夫は平井呈一の訳文を評価しなかったか。この謎について、法月氏は仮説を二つ提示しています。ひとつはその原因は都筑道夫が「アメリカ英語とイギリス英語のギャップに悩まされ、後者への苦手意識を解消できなかったせいかも」しれず、それがイギリス英語に堪能な平井の訳文に「アレルギー反応」を起こさせたのではないかというもの。

もうひとつは『迷いの谷』中の「秋成小見」にでてくる「樊噌」論と、都筑のエッセイ中に出てくるエピソードを対比させ、平井の訳文への反発には無意識のうちに「コンプレックスの裏返し的な不満」が出ているのではという説です。でもこんな乱暴なまとめでは、元の文章の妙味はとても再現できません。原文の一読をお薦めいたします。