日夏耿之介

日夏と平井

『迷いの谷』が出た。さいわい好評のようでうれしい。漏れ聞く噂によれば今度の『ジャーロ』でも取りあげられるという。そこでこの機会に解説で書き漏らしたことをひとつふたつ。平井呈一と日夏耿之介はどちらもゴシック・ロマンス移入の功労者で、また超自…

日夏といえば

日夏といえば『游牧記』四冊揃いが今は三割引きで売っている。神保町の田村書店が「ほとんど全品三割引きあるいは五割引きセール」を開催中のためだ。このセールは今月十一日からやっているのだが、おととい行ってみたら、『游牧記』はまだ売れていなかった…

日夏の響きをなつかしむ

最近のランボー訳の中で出色のものは二〇一〇年に河出文庫から出た鈴木創士氏の『ランボー全詩集』であると思う。とりわけ『ある地獄の季節』『イリュミナシオン』の二詩集に関しては。 「酔いどれ船」はそれらより前、まだ十七歳のときに書かれたものだ。鈴…

時間からのポー

ポーといえば気にかかることが一つある。ツイッター界隈を流れる噂によれば、ラヴクラフトの "Colour out of Space" を「宇宙からの色」とか、"Shadow out of Time" を「時間からの影」と訳している本があるらしい。ツイッターというのはデマ生成装置みたい…

あとになって

新しく出た訳本をパラパラとめくるたびに、「あーしまった」と天を仰ぐ。今回の『イヴのことを少し』もはたして例外ではなかった。今回一番恥ずかしいのは、キャプションの訳である。'take over'というのはむろん「引き継ぐ」という意味で、こんなのは高校生…

ルビのために

ルビというのは大切なものである。むかし、「忽然(こちねん)と叩叩の欵門(おとない)あり。」の「叩叩」のところにルビがなかったので、「とんとん」と読んだ人がいた。大阪圭吉か! でもまあ、「こちねんととんとんのおとないあり」もけして悪くはない。…

横積み者の末路

SFのSは、ステキのS作者:池澤 春菜早川書房Amazon 以前『乙女の読書道』を一読して文章のうまさに仰天し、そのまま池澤ファンとなった。(こんな言い方をされては本人としては不本意だとは思うけれど)三代の蓄積を目の当たりに見る思いがする。 ということ…

後期源一問題

巴里幻想譯詩集国書刊行会Amazon 後期春夫問題よりさらに問題なものに後期源一問題がある。何かというと、初期の矢野目源一作品に心酔したファンが後期作品を読んで激しく頭を抱え、ときには再起不能に陥るという問題である。己の日夏門下への忠誠度が試練に…

Hoaxへのいざない

バンヴァードの阿房宮: 世界を変えなかった十三人作者:ポール コリンズ発売日: 2014/08/26メディア: 単行本 本書におさめられた13のトピックのうち、イギリスの話が4つ、フランスの話が2つ、そして残りの7つがアメリカの話だ。それぞれの話には、それぞれの…

御礼

* 巽昌章さんが『ヴァルミュラーの館』の感想を寄せてくださいました。おお、お読みいただきありがとうございます。 日夏耿之介が「高野聖」をバルベー・ドールヴィイと比較した論を受けて、澁澤龍彦が「それちゃう。鏡花はドールヴィイよりむしろホフマン…

文豪怪談・三島集を巡って1(言霊の巻)

三島由紀夫集 雛の宿―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)作者: 三島由紀夫,東雅夫出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2007/09/10メディア: 文庫 クリック: 4回この商品を含むブログ (16件) を見る 人の書いた言葉は、その人が死んだ後も残る。運がよければ千年経と…

怪訳対超訳

アルトー後期集成 1作者:アントナン・アルトー河出書房新社Amazon 酒場でこの本をぱらぱらしていたらアルトー訳エドガー・アラン・ポー「イスラフェル」なるものが出てきた。その凄まじい超訳ぶりにぶっとぶ。日夏耿之介の「イスラフェル」も怪訳だったが、…

ゴシックよもやま話(2)『吸血妖魅考』  ISBN:4480087826

最近文庫版も出た日夏耿之介『吸血妖魅考』は、日夏自身が序で記している通り、門下の太田七郎らの助力に負うところが少なくなかったらしい。またその内容もモンタギュー・サマーズの吸血鬼関係の二著の祖述(翻案)であるという。それならばこの本には日夏…