2022-01-01から1年間の記事一覧
わが家には『箱の中のあなた 山川方夫ショートショート集成』が二冊ある。別に読書用と保存用とかそういうものではない。痛恨のダブリ買いなのである。昨日、書店で「堂々完成」と帯に書いてある『箱の中のあなた』を見て、「堂々完成」を「堂々完結」と空目…
叙述トリックとフーダニットの両立という点で見逃せないのが、依井貴裕のある長篇である。ここではA,B,Cと三つの事件が語られる。ところがそれが叙述トリックで、実際はC,B,Aの順に事件は起こっている。そしてフーダニットの面からいえば、叙述に騙された人…
ロナルド・A・ノックス大司教いわく、 支那人を登場させてはならない。——なぜならないのか、その理由を説明するのはむずかしい。われわれ西洋人には支那人を目(もく)して、頭脳においておそろしく秀でており、道徳方面では冷酷単純である、という風に考える…
超動く家にて (創元SF文庫)作者:宮内 悠介東京創元社Amazon 本格ミステリには『毒入りチョコレート事件』に(おそらく)はじまる「多重解決もの」というジャンルがある。たとえば貫井徳郎のある作品では、ある解決での探偵役が、次の解決では犯人にされる…
神のロジック 次は誰の番ですか? (コスミック文庫)作者:西澤保彦コスミック出版Amazon 本格ミステリと叙述トリックの役割分担という点で興味深いのは西澤保彦の『神のロジック 人間 (ひと) のマジック』である。これは西澤保彦の数多い作品のなかでも屈指の…
まだまだ続くミステリの話。誰も読んでないような気もするけれど、年寄りというのは物覚えが悪く、いったん思いついたことでも次の瞬間には忘れてしまう。だから忘備のためにここにメモしておくのである。さて、19日の日記で『聖女の救済』の叙述トリックに…
またまた昨日の続きである。どうもミステリの話をはじめると、わが身は山本リンダと化して、どうにもとまらなくて困る。それはともかく、昨日は、『聖女の救済』と『容疑者Xの献身』はほとんど同じ構造をしているのに、前者には「純粋本格」を感じ、後者は本…
(これは一昨日の日記の続きです)『容疑者Xの献身』のトリックは途中で見当がついた。といっても推理でわかったわけではない。似たトリックを使った某長篇を前に読んでいたので「ああ、あの手か」と思ったにすぎない。ご存知の方も多いと思うが、この某長篇…
(昨日の続き)日が暮れる頃にはやや回復したので、『CRITICA』のバックナンバーを読んで過ごした。これは『「新青年」趣味』『Re-Clam』『CRITICA』というミステリ評論同人誌御三家のなかでは、もっとも「熱い」雑誌だと思う。評される対象と評する人の距離…
先日コロナワクチンの四回目を打った。この前モデルナを打ったときは副反応が少し重かったので、今度はファイザー(オミクロン株対応)にした。だが副反応は来た。当日は腕が痛いくらいで他は大丈夫だったが、夜中にガタガタと震えが来て、朝目が覚めても床…
かつての名アンソロジーを今に蘇らせるシリーズの第二弾『吸血鬼』がもうすぐ出ます。不肖わたくしも巻頭の中篇「謎の男」の訳で参戦しております。 この「謎の男」を書いたK. A. フォン・ヴァクスマン(1787-1862) は当時は人気作家だったみたいですが今はほ…
久しぶりに起動したプリンターが不調*1で文学フリマ新刊は断念。いずれ盛林堂さんにお願いして通販しようと思っています。というわけで代わり映えしない頒布物で申し訳ありませんが、よろしければ明日は会場でお会いしましょう。 *1:スジが出る。たぶんイメ…
文学フリマ事務局から入場証が送られてきた。久しぶりだから新刊を出したいがハテどうなることか。
国書刊行会の創業50周年記念小冊子『私が選ぶ国書刊行会の3冊』が届いた。ありがとうございます。さっそくエゴサーチの鬼と化し、ドレドレ自分の訳書を選んでくれた人はいるかなと鵜の目鷹の目でさがした、だがどこにもない。やはり自分は国書的には新参者…
松山俊太郎翁は『綺想礼讃』のなかで「『密室殺人』の何割かは作者のエディプス・コンプレックスを隠された動機とするだろう」と述べている。つまり密室は母胎のシンボルであって、被害者に擬された父をそこで殺すことで、作者はひそかな願望を満たすという…
きのうは久しぶりにぽかぽかといい陽気になったので国立まで足を延ばした。まずは三日月書店に寄って豊島與志雄の『秦の憂愁』『山吹の花』他何冊かを買った。勘定のついでにあのアラビア語タイプライターは売れましたかと聞いてみると売れなかったそうだ(…
小鷹信光氏といえばハードボイルドの名翻訳者・研究家として有名だが「ポルノ」という略称を日本語に定着させた人でもある(どこかの出版社が週刊新潮の氏の長期連載「めりけんポルノ」の完全版集成を出さないものだろうか)。その背景にはかのオリンピア・…
金沢から戻ってきた人からふたたびタレコミあり。昨日孫引きで引用したラルボーの書評は、その全文が国書刊行会『ボルヘスの世界』に高遠弘美氏の訳で載っているという。どれどれと見てみると本当にあった。 この『ボルヘスの世界』という本は、二十年以上前…
先週の洋書まつりで買った本の中にヴァレリー・ラルボーの伝記があった。謎のダブリ本の群れの中の一冊である。著者はベアトリス・ムスリという人で1998年にフラマリオンから出ている。この本によればボルヘスはラルボーに『審問』を献呈したらしい。『続審…
紀伊国屋書店で開催中の「『月面文字翻刻一例』刊行記念川野芽生選書フェア」、その中の一冊に『夜毎に石の橋の下で』を選んでいただきました。川野芽生さん、ありがとうございます。もう十年も前に出した本ですが、こんなふうに若い世代にも受け入れられて…
先週洋書まつりに行ったついでに東京堂書店をのぞいたら西崎憲さんの新刊『本の幽霊』があった。奥付によれば9月30日の発行だったそうだが、不覚にも全然知らなかった! 冒頭の短篇「本の幽霊」の語り手はむかしロンドンの幻想文学専門古書店から届くカタロ…
倉阪鬼一郎さんのミステリには「壮麗な館らしく描写されたものが実は〇〇だった」というのがかなりある。講談社ノベルスで出たもののうち半数以上はそうではなかろうか。いっぽうレア―ジュの『O嬢の物語』『ロワッシーへの帰還』の二冊からなるO嬢二部作も、…
昨日と今日は洋書まつり。今回は三日月書店さんがアラビア語のタイプライターを出品している。もしかしてウケ狙い? それとも誰か買うのだろうか。例によって田村書店さんの本が奥の壁面のかなりの部分を占めている。今回は新品同様といった感じのフランス書…
またボルヘスが訳せるといいな、今度は伝記を訳したいなと思いながら未練がましく西和大辞典をぱらぱらめくっているとcapicuaなる変な単語に出くわした。 ようするに岡嶋二人の山本山コンビみたいに、逆から読んでも同じになる単語や数字のことを言うらしい…
将来自分も「奇想天外の本棚」を企画するようになったときのために(妄想)、何かの参考になるかと読んでみた。作者のバウチャーは1911生まれで、この『偽聖者』は1940年の出版だから、バウチャーが二十歳代で書いた小説になる。なるほど作家やら警部補やら…
「プヒプヒ版・奇想天外の本棚」の中で、澁澤龍彦蔵書と共通しているものはどれくらいあるだろうと思って調べてみた。雨の降る朝にはついこういうことがしたくなる。結果は十二冊中五冊。ただしベレンの本で澁澤書庫にあったのは『サバトの女王』ではなく『…
昨日のブログを読んでくださった方からさっそくタレコミがあった。国書刊行会から近々アーサー・マッケンの自伝が出るそうだ。それも南條竹則氏の訳で!おそらく今頃は南條氏のもとに不幸の手紙が矢のように届いていることだろう。『あくび猫』によれば「あ…
国書刊行会パンフレットによれば山口雅也氏が「製作総指揮」という、「奇想天外の本棚」があちこちで話題を呼んでいるようです。内容に関しては三門優祐氏のブログ深海通信 はてなブログ版が整理されていて便利です。こんなふうに実現可能性無視で好き勝手に…
今月の宇陀児第二弾も読み応えがあった。強いて集中のベスト3を挙げるとすれば以下のようになろうか。「決闘街」——良心の呵責からおかしくなりかけている二人が決闘を望みながら果たせず、やり場に困った不完全燃焼の感情が、ふとした偶然をきっかけにとん…
『本の雑誌』十月号の特集は「あなたの知らない索引の世界」。そこに「この本の索引がすごい!」という読者アンケートがある。そこでまたもやエゴサーチの鬼と化し、「ドレドレ誰か『記憶の図書館』を挙げてくれてるかな」と淡い期待とともに読んだ。だが当…