クラシックミステリ

『九人の偽聖者の密室』

将来自分も「奇想天外の本棚」を企画するようになったときのために(妄想)、何かの参考になるかと読んでみた。作者のバウチャーは1911生まれで、この『偽聖者』は1940年の出版だから、バウチャーが二十歳代で書いた小説になる。なるほど作家やら警部補やら…

『烙印』

今月の宇陀児第二弾も読み応えがあった。強いて集中のベスト3を挙げるとすれば以下のようになろうか。「決闘街」——良心の呵責からおかしくなりかけている二人が決闘を望みながら果たせず、やり場に困った不完全燃焼の感情が、ふとした偶然をきっかけにとん…

『偽悪病患者』

少し前の角田喜久雄に続いて今度は大下宇陀児の短篇集が創元推理文庫で出た。全二巻の傑作選になるらしく、その前篇にあたる『偽悪病患者』は初期の名作を集めている……とつい書いてしまったが、名作というよりはむしろ怪作奇作実験作と呼んだほうが適切かも…

《仮面・男爵・博士》叢書・第2巻販売開始

皆進社からお知らせのメールが来ました。今宵皆さんをご招待するのは、うつし世の憂いを忘れさせる、華麗な犯罪ゲームの世界である。《仮面・男爵・博士》叢書の第2巻は、渡辺啓助の連作『空気男爵』に短編4作を併録。 監修=新田康 解説=横井司 ブックデザ…

『狩場の悲劇』

狩場の悲劇 (中公文庫 チ 3-3)作者:チェーホフ中央公論新社Amazon 登場人物一覧の中の「オーレリア」は「オーレニカ」の誤植だと思う。これはたぶん、「アクセル全開、インド人を右に! 」と似たケースで、(おそらく校正時に)悪筆で書かれた「ニカ」を「リ…

『悪魔を見た処女 吉良運平翻訳セレクション』

学魔の新刊『鎮魂譜 アリス狩りVII』を買おうと思って雨の中を東京堂書店まで行った。お目当ての本は新刊平台ですぐ見つかったが、そのすぐ近くに目を疑うような本が並べてあった。すなわち本書である。吉良運平の名は乱歩『幻影城』の愛読者にはおなじみだ…

最古の叙述トリック作品は?

夏来健次・平戸懐古というすばらしいタッグによる英米古典吸血鬼小説傑作集『吸血鬼ラスヴァン』が来月末に東京創元社から出るらしい。おお、これはものすごいものになりそうで今から楽しみだ。平戸懐古氏といえば、話は急に変わるが、氏が私家版「懐古文庫…

『都筑道夫創訳ミステリ集成』の楽しさ

都筑道夫創訳ミステリ集成作者:ジョン・P・マーカンド,カロリン・キーン,エドガー・ライス・バローズ,新保博久,堀燐太郎,平山雄一作品社Amazon 翻訳を依頼されたはいいけれど、「こんなつまらんものを訳してられるか!」とぶち切れて(かどうかは知らないが…

うじうじと悩む話

この前『都筑道夫の読ホリデイ』を通読したことを日記に書いた。この本を読むと当然のことながら都筑のミステリ好きが感染して、創元推理文庫や早川ポケミスを読みたくてたまらなくなる。折よく荻窪の古書ワルツに『細い線』が置いてあったので買ってきた。…

悪の起源

エラリー・クイーン 創作の秘密: 往復書簡1947-1950年作者:ジョゼフ・グッドリッチ国書刊行会Amazon 続いて『悪の起源』のところを読む。この長篇をむかし読んだときは、結末で明かされる贈り物の意味にあぜんとして、今でいうバカミスではないかと思った。…

紙片は告発する

ディヴァインは好きな作家だ。社会思想社のミステリボックス時代にはよく読んだ。でも長いあいだ作者は女性かと思っていた。女性が視点人物になることが多いし、女性の心理描写に容赦がなく、また往々にしていかにも女性作家らしい結末で締めくくるから。実…

ライノクス殺人事件

シンプルなトリックを圧倒的なケレン味で包み込む、日本でいえば、『○○○○○○○○殺人事件』を連想させるような作品。ちなみに『○○○○○○○○殺人事件』は評価が真っ二つに分かれた問題作だが自分は傑作と思う。『ライノクス』もこれと同じくらいに、読者の目をくら…

探偵を捜せ!

有名な作品だが今回初めて読んだ。舞台は山の上に一軒だけ建つ山荘。その管理人は急用のため山荘を去り、客のウェザビー夫婦と小間使いだけが残された。ウェザビー夫人は遺産目当てに夫を殺してしまう。ところが夫は死ぬ直前に、探偵を雇ってここに来るよう…

水平線の男

何を隠そう、拙豚は還暦をとうに越えた爺である。いかに爺かというと、こんな ↓ 本が新刊書店で買えたほどの爺なのである。 これを買ったのは岡山の細謹舎という書店だ。今はもう跡形もないけれど、半世紀前は(丸善や紀伊国屋なんかのチェーン店を除けば)…

100%アリバイ

「異色作に名作なし」といわれる。どうにも褒めようがなくて困ったときは「問題作」とか「異色作」とか「この著者のファンなら必読」とか評してお茶を濁すものらしい。果たしてこの本の帯にも「異色作」と書いてある。「探偵小説の常識をくつがえす異色作」…

おうむの復讐

外出自粛をいい機会に、本の整理をぼちぼちと進めている。ただ面白そうな本が発掘されると読みふけってしまうので整理は遅々として進まない。むしろ散らかる一方ともいえよう。発掘された本の一冊がこれ ↓ 、アン・オースティンの『おうむの復讐』である。こ…

忖度から始まった

創元の話題が続くが、「日本の創作推理小説は忖度から始まった!」と名うって東京創元社は「日本探偵小説全集」を大々的に宣伝してはどうだろう。 忖度ばやりの昨今受けると思うのだけれど……。まあ老舗がそんなえげつないことはやるわけはないか。それに最新…

わが創元推理文庫神7(その2)

神7の二番手はこれ。 マクロイは傑作揃いでどれを挙げようか迷う。しかし『暗い鏡の中に』は早川書房のほうが先に出たし、『家蠅とカナリア』にも別冊宝石に訳があるので神7のルールにしたがってこれになった。『家蠅とカナリア』の真犯人が危険を冒してで…

マクロイを愛す

牧神の影 (ちくま文庫)作者:マクロイ,ヘレン筑摩書房Amazon悪意の夜 (創元推理文庫)作者:ヘレン・マクロイ東京創元社Amazon ヘレン・マクロイが好きだ。海辺まで走っていって、「好きだよー!」と叫びたくなるくらいに好きだ。だからここ最近のマクロイの新…

登場人物表のパラドックス

煙で描いた肖像画 (創元推理文庫)作者:ビル・S. バリンジャー東京創元社Amazon 今はむかし、世紀の変わり目前後に、ミステリ系サイトが栄えた一時期があった。実をいうとこの「プヒプヒ日記」もそれら先輩サイトに刺激を受けて生まれたものだ。ところが栄枯…

絢子の幻覚

岩田賛探偵小説選 (論創ミステリ叢書 108)作者:岩田賛論創社Amazon 今提出されている高校国語の改定案によると、「論理国語」と「文学国語」というのが新たにできるそうだ。なにやら文学のほうの人がひそかに結集して、抜打座談会とかやりそうな雰囲気になっ…

新青年堀辰雄

羽ばたき 堀辰雄 初期ファンタジー傑作集作者:辰雄, 堀彩流社Amazon この本は堀辰雄の初期作品からファンタシー味のある小品を二十二篇集めたものです。今「肺病病みの軽井沢文学なんか読んでられるかいな」と思ったそこのミステリファンのあなた、あなたに…

ウダルグルーヴ

大下宇陀児探偵小説選〈1〉 (論創ミステリ叢書)作者:大下 宇陀児論創社Amazon 今日付けの『新青年』研究会のブログを見たら『新青年』趣味17号が文学フリマで初売りだそうな。特集はなんと大下宇陀児! その変わらぬ時代錯誤ぶりに思わず笑いが出た。世間で…

マクロイ「あなたは誰?」

あなたは誰? (ちくま文庫)作者:ヘレン マクロイ発売日: 2015/09/09メディア: 文庫 こいつは凄いですよ! もしかすると読者を選ぶ作品なのかもしれませんけれど、すくなくとも竹本健治のある種の傾向の作品、たとえばゲーム三部作の愛好家には絶対のお勧めで…

ROM最新号

ROM最新号はデューセの翻訳をはじめとして、いつもにもまして読み応えがある。なかでも驚いたのは森英俊氏の「Book Sleuth」という連載。今回は山中峯太郎編〈ポー推理小説文庫〉なる珍本がとりあげられているが、これがすごいのなんの。たとえばこのシリー…

あるカーの密室作品

* ボ氏の本はいま疑問点をつぶしているところ。ある対談でボ氏はこんなことを言っている。 * それはたとえばディクスン・カーの多くの小説のように、終わりまで読むと失望するものもあります。でも読んでいるあいだはたいへん楽しんで読めるのです。あるカ…

ヴィクトリアンに歩調をあわせて

*Early German and Austrian Detective Fiction: An Anthology作者: Mary W. Tannert,Henry Kratz出版社/メーカー: McFarland Publishing発売日: 2007/10/01メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る* 次号のROMの特集は、小林さんの希…

狩久登場

狩久探偵小説選 (論創ミステリ叢書)作者:狩 久論創社Amazon 奇作怪作でむせかえるような清張以前ミステリ群のなかでも、狩久は際立って異様な作風を持つ一人である。人は狩久のようなミステリを読みたいと思えば、狩久を読むしかない。 いま、ついうっかり「…

エルクマン-シャトリアン続報―文学フリマで販売します

* 非常な小部数にもかかわらず、ただいまわが家には10冊も。 * * といっても別に隠し持っているわけではなくて、文学フリマ販売用なのです。首都圏にお住まいで、現物を目で見てから買いたいという方はぜひ当日おいでください。価格はROM通販の非会員価格…

ドイツ版EQMMの混沌

*Bibliographie der Kriminalerzaehlungen: 1948 - 2000作者: Dieter Kaestner出版社/メーカー: Baskerville Buecher発売日: 2001/11メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る* バスカービル書房から「短篇探偵小説書目1948-2000」が届…