2023-01-01から1年間の記事一覧

平井と小林信彦

(これは昨日の日記の続きです)こういう、フランス料理を箸で食べるような感じにときどきなる平井の翻訳態度が、ある種の人たちをいらだたせるのは当然といえば当然だろう。「ある種の人たち」というのは、大ざっぱにいうと海外の文化にあこがれる人たちで…

日夏と平井

『迷いの谷』が出た。さいわい好評のようでうれしい。漏れ聞く噂によれば今度の『ジャーロ』でも取りあげられるという。そこでこの機会に解説で書き漏らしたことをひとつふたつ。平井呈一と日夏耿之介はどちらもゴシック・ロマンス移入の功労者で、また超自…

日本男児ここにあり

盛林堂ミステリアス文庫の新刊は渡辺啓助。この前皆進社から出た『空気男爵』がやや期待外れだったので、今度の啓助はどうだろうとおそるおそるページをめくってみた。だがこれは大当たりだった。まだ最初の二篇を読んだだけだが、めっぽう面白い。短い枚数…

実在したケルト・ルネサンス様式

黒死館附属幻稚園の新刊がすばらしい。今回の文学フリマで出たマーガレット・オリファント『秘密の部屋』である。これも黒死館研究史に新たな一歩をしるすものだと思う。『黒死館殺人事件』の舞台、黒死館の建築様式は「ケルト・ルネサンス式」であるらしい…

文学フリマ御礼とおわび

昨日の文学フリマでは大勢の方に来ていただきありがとうございました。一月の文学フリマ京都では5部、二月の文学フリマ広島では1部しか新刊が売れなかったので、たかをくくって15部くらいしか作って行かなかったところ、予想を上回る方に来ていただき、40…

明後日は文学フリマ

ということで明後日は文学フリマですが、おかげさまでなんとか新刊が出せそうな雲行きです。それから商業刊行物で現在品切増刷未定のものも何冊か持っていきます。それから矢野目源一の『ゆりかご』が、あと3~40部くらい探せば在庫があるはずなので、見つか…

仙台はいい町だ

『本の雑誌』六月号の掲載図書索引をながめていたら「テュルリュパン」の文字が。すわ何事かと該当ページを開くと、佐藤厚志氏が「図書カード三万円使い放題」でこの本を選んでくださっていた。ありがとうございます。佐藤氏によれば氏の勤務先丸善仙台アエ…

ヴィヨンと皇帝ネロ

ヴィヨンといえばこの機会に大々的に宣伝したいのですが、拙訳『イヴのことを少し』にもヴィヨンは出てくるのですよ。しかもあの皇帝ネロと友だちでいっしょに旅しているのです。文字通りの悪友ですね。悪者でありながらどちらも文学に憑かれていた二人をペ…

中世フランス詩という魔笛

毎度お騒がせの国書刊行会がまたまたすごいものを出した。宮下志朗氏の翻訳・註解による『ヴィヨン全詩集』である。問題の国書税も『マルセル・シュオッブ全集』などに比べればだいぶ手加減してくれているのがありがたい。日本国も国書に倣って減税をしてく…

ハッピーバースデー

かの第三句集の方の誕生日になった。ハッピーバースデー。句集からは虚子の遠い残響が聞き取れるような気がする。ほるぷで復刻された『五百句』を引っぱり出して久しぶりにぱらぱらとめくってみた。

浜辺のポウイス

うみの図書館近くで開かれた海辺ブックフェスをのぞいてきました。絶好の連休日和に恵まれてものすごい盛況でした。浜辺沿いにずらりと並ぶ古本出店。振り返って海に目を向けると子供たちが波と戯れています。裸足で浅瀬にジャブジャブと入って砂浜近くに流…

闇に一条の光

日本翻訳大賞のツィッターが寄付を募っていた(詳しくはここをクリック)。「かなり苦しい状態ではあります」とのことだ。義を見てせざるは勇無きなり。さっそく雀の涙ではあるが寄付金を振り込んできた。「途中でやめたら承知せんぞ」という圧を関係者が感…

恋二題

「恋二題」は乱歩の最初期の作品で、二つの短篇「恋二題(その一)」「恋二題(その二)」からなっている。これらはのちにそれぞれ「日記帳」「算盤が恋を語る話」と改題されて単行本におさめられた。この二篇や「恐ろしき錯誤」「疑惑」などのいわばサイコ…

ある第三句集

その方の誕生日も近づこうというころ、第三句集を入手した。表紙タイトルの金文字がまぶしい。第二句集から長いインターバルを経て生まれた本ゆえ感慨深く読みふけった。もっとも去年の八月にすでに出ていたのだが、うかつにもその存在すら今まで知らず、お…

平井呈一と吉野家コピペ

今回の『迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成』には、平井呈一の推理小説関連のエッセイがまとまって収録されている。平井が推理小説について語った文章はおそらくこれで全部ではあるまいか。解説では書く余裕がなかったがこれも今回の集成の目玉であろうと思う。…

とほい空でぴすとるが鳴る

また佐野洋を読みました。例によって「佐野洋のどこがそんなにいいんだ」というようなクレームは却下です。さて今回は『十年物語』という短篇集。1997年に文庫オリジナルで出た本です。ですから晩年の作といっていいでしょう。「とほい空でぴすとるが鳴る」…

『腿太郎伝説』を読んでしまった

サイン本が乱れ飛んでいるとかいう世紀のウルトラ大怪作『腿太郎伝説』。ついに読んでしまいましたよ。今の気分は「どうだ……読んでしまったか」と正木博士に話しかけられた呉一郎です。キャラがメインか? 漫才がメインか? ストーリーがメインか? というく…

ピアノは打楽器

昨日書いたようなわけで、近ごろは荻窪ミニヨンにしげしげと通っていて、あたかも仕事場のようになっています。ここは名曲喫茶としてはルールがゆるくて、パソコンを打っていても怒られないし、会話も普通の声ならOKです。ただし携帯電話はだめ。しかしその…

いま訳しているもの

いま翻訳しているものを村上春樹風にいえば、「世界の終わりとクラシック音楽・ワンダーランド」みたいな感じになるかもしれません。荻窪の名曲喫茶「ミニヨン」にひんぱんに通っては作中に出てくる曲をリクエストし、訳をチェックし、あわせて作中の雰囲気…

セルビアの星新一

盛林堂ミステリアス文庫から渦巻栗氏の訳でゾラン・ジヴコヴィチ『図書館』が出ました。こいつはすばらしい! ゾラン、ゾラン、ゾラ~ン、はるかな宇宙か~ら~——いやなんでもありません。一読して驚くのは星新一そっくりなことです。それも後期星新一、つま…

盛林堂で『アーカムハウスの本』を買う

今日は西荻まで出かけて『アーカム・ハウスの本』を買ってきました。あいにく店主は留守でしたが……こういうリストは大好きなのでさっそく舐めるように読みましたよ。なんという至福の時間。邦訳情報には気の遠くなるような手間がかかっていると思います。『S…

『沖積舎の50年 増補版』

同社より『世界最古のもの』『セルバンテス』が出た縁で、『沖積舎の50年 増補版』を贈っていただきました。どうもありがとうございます。国書刊行会と同じころのスタートだったんですね。なんとなく六十年代からあったように思っていました。この本では五十…

『迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成』

藤原編集室の『本棚の中の骸骨』ですでに公表されているとおり、『迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成』の解説を書きました。これは『幽霊島』『恐怖』に続く平井呈一怪談翻訳集成の第三弾です。少し前に東雅夫さんの解説による『世界怪奇実話集 屍衣の花嫁』も…

小野塚力氏への対応

昨日のブログ (削除済み) にも書いた通り、その後小野塚氏よりメールが来なくなったので、直近の三エントリ「小野塚氏の高飛車メール」「小野塚氏の高飛車メールふたたび」「その後の小野塚氏」を削除し、エントリ「一人三役疑惑」を修正した。もっとも削除…

一人三役疑惑

日ごろから愛読している『銀髪伯爵バードス島綺譚』によると、杉山淳さんの『怪奇探偵小説家 西村賢太』がヤフオクで59,000円で落札されたそうです。すごいですね。大好評を博していることがうかがわれます。ちょっとこの本に興味がわいてきましたが、肝心の…

『国書刊行会50年の歩み』

カラーページが16pもついた超椀飯振舞・大豪華冊子『国書刊行会50年の歩み』を送っていただきました。どうもありがとうございます。 表紙からして眼とかドクロとかバラバラの手足とか気色の悪いゴシック趣味が横溢してますが実は中身はもっとすごい。「用…

どんでん七傑

『本の雑誌』3月号の特集はどんでん返しである。ついにどんでんが来たか!——と言うと違う意味になってしまうが、ともかく表紙にはでかでかと「どんでん返しが気持ちいい!」とうたわれている。さっそく特集の驥尾にふし、読後あぜんとしたどんでん返し七傑…

腿太郎の誕生

腿太郎伝説(人呼んで、腿伝)作者:深堀骨左右社Amazon あの深掘骨氏の新作が今月24日に出るというので世間は騒然としている。しかも岸本佐知子氏の推薦つきで。きっと「他の誰にも絶対に書けない小説を書こう」という固い決意があるのだろう。あるいは最初…

怪談の訳註

あるアンソロジーのために怪談の短篇を一つ訳した。そのとき少し悩んだのは怪談に訳註はどうあるべきかということだ。訳したのはストレートな怪談で、おそらくポーの影響をたっぷり受けている。すなわちあらかじめ計算された展開のなかで雰囲気をジワジワと…

消えないうちに読もう

『都筑道夫の読ホリデイ』にこんな ↑ 一節がある。「やたらに本が消える」とはおだやかでない。大変失礼な想像で恐縮なのだけれど、大胆な想像をあえてすれば、もしかしたら都筑夫人は、都筑氏の留守中に本が届くと「ああまた本が増えた。片付かないったらあ…