叙述トリック
わが家には『箱の中のあなた 山川方夫ショートショート集成』が二冊ある。別に読書用と保存用とかそういうものではない。痛恨のダブリ買いなのである。昨日、書店で「堂々完成」と帯に書いてある『箱の中のあなた』を見て、「堂々完成」を「堂々完結」と空目…
叙述トリックとフーダニットの両立という点で見逃せないのが、依井貴裕のある長篇である。ここではA,B,Cと三つの事件が語られる。ところがそれが叙述トリックで、実際はC,B,Aの順に事件は起こっている。そしてフーダニットの面からいえば、叙述に騙された人…
超動く家にて (創元SF文庫)作者:宮内 悠介東京創元社Amazon 本格ミステリには『毒入りチョコレート事件』に(おそらく)はじまる「多重解決もの」というジャンルがある。たとえば貫井徳郎のある作品では、ある解決での探偵役が、次の解決では犯人にされる…
神のロジック 次は誰の番ですか? (コスミック文庫)作者:西澤保彦コスミック出版Amazon 本格ミステリと叙述トリックの役割分担という点で興味深いのは西澤保彦の『神のロジック 人間 (ひと) のマジック』である。これは西澤保彦の数多い作品のなかでも屈指の…
まだまだ続くミステリの話。誰も読んでないような気もするけれど、年寄りというのは物覚えが悪く、いったん思いついたことでも次の瞬間には忘れてしまう。だから忘備のためにここにメモしておくのである。さて、19日の日記で『聖女の救済』の叙述トリックに…
またまた昨日の続きである。どうもミステリの話をはじめると、わが身は山本リンダと化して、どうにもとまらなくて困る。それはともかく、昨日は、『聖女の救済』と『容疑者Xの献身』はほとんど同じ構造をしているのに、前者には「純粋本格」を感じ、後者は本…
(これは一昨日の日記の続きです)『容疑者Xの献身』のトリックは途中で見当がついた。といっても推理でわかったわけではない。似たトリックを使った某長篇を前に読んでいたので「ああ、あの手か」と思ったにすぎない。ご存知の方も多いと思うが、この某長篇…
(昨日の続き)日が暮れる頃にはやや回復したので、『CRITICA』のバックナンバーを読んで過ごした。これは『「新青年」趣味』『Re-Clam』『CRITICA』というミステリ評論同人誌御三家のなかでは、もっとも「熱い」雑誌だと思う。評される対象と評する人の距離…
松山俊太郎翁は『綺想礼讃』のなかで「『密室殺人』の何割かは作者のエディプス・コンプレックスを隠された動機とするだろう」と述べている。つまり密室は母胎のシンボルであって、被害者に擬された父をそこで殺すことで、作者はひそかな願望を満たすという…
倉阪鬼一郎さんのミステリには「壮麗な館らしく描写されたものが実は〇〇だった」というのがかなりある。講談社ノベルスで出たもののうち半数以上はそうではなかろうか。いっぽうレア―ジュの『O嬢の物語』『ロワッシーへの帰還』の二冊からなるO嬢二部作も、…
『狩場の悲劇』の解説を読んだら、これは叙述トリックの一種である、というようなことが書いてあった。いや、それはいくらなんでも違うでしょう、と自分のようなオールドファンは思うのだが、ネットで検索してみると、「叙述トリック」を「語り手=犯人」の…
夏来健次・平戸懐古というすばらしいタッグによる英米古典吸血鬼小説傑作集『吸血鬼ラスヴァン』が来月末に東京創元社から出るらしい。おお、これはものすごいものになりそうで今から楽しみだ。平戸懐古氏といえば、話は急に変わるが、氏が私家版「懐古文庫…
日本では本の帯によく「〇〇氏絶讃!」などという宣伝文が書かれてある。英米のペーパーバックでそれにあたるのが裏表紙の引用文である。たとえば「驚天動地の傑作!(ニューヨークタイムズ)」とかそんな感じで書評の一部が引用されている。しかしこれが実…
エラリー・クイーン 創作の秘密: 往復書簡1947-1950年作者:ジョゼフ・グッドリッチ国書刊行会Amazon ダネイは1949年4月12日付の書簡で、チャンドラーの『かわいい女』(『リトル・シスター』)をくさしてこう書いている。「一体全体、これは何についての話…
生の館作者:マリオ・プラーツみすず書房Amazon 倉阪鬼一郎さん、日本歴史時代作家協会賞受賞おめでとうございます! 今日はそれを祝してクラサカ風の館の話をしましょう。 倉阪さんのミステリの中には「立派な館かと思ったら実は〇〇だった」というのが何冊…
駒場のとある古書店主が今回の学魔本放出について、日記で触れている。「懇意でもないのにかっさらいやがって」という嫉妬と羨望が見え隠れする嫌らしい文だけれど、そのせいかどうか、どうも認知に歪みが生じているようだ。同業者なんだから、ちゃんと裏を…
まるで天使のような (創元推理文庫)作者:マーガレット・ミラー東京創元社Amazon まだハイデガーを読んでいるが、今回の話はどうハイデガーに関係するのかまったく不明。それというのもハイデガーの本は読んでいると様々な思考を誘発されるのだ。そう書くと何…
*赤い右手 (創元推理文庫)作者: ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ,夏来健次出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2014/11/21メディア: 文庫この商品を含むブログ (13件) を見る* 『赤い右手』の文庫版が出た。 これは実にハラハラドキドキさせる小説だ。…
昨日届いたSRマンスリーの394号は森英俊氏インタビューと東京創元社特集という豪華二本立てで読み応えたっぷり。森氏インタビューによれば、なんでも『失われたミステり史』を出した盛林堂書房から、「以前に出た『少年少女昭和ミステリ美術館』で採りあげ…
かくも水深き不在作者:竹本 健治新潮社Amazon 一人称で書かれたミステリで、犯人は「わたし」だったというものがある。クリスティの某作みたいな「記述者が犯人」とは違う。どこが違うかといえば、「わたし」自身も、自分が犯人であることを、探偵に指摘され…
きのうのですぺらは大入り満員で、あやうく立ち飲みになるところだった。何であんなに小部数しか納入しないのかと怒られた。まさかですぺらで怒られるとは。しかも、きのうのきょうの話なのに、なぜそんなにマッハの速さで伝わりますか? 地獄耳情報網おそろ…
騙し絵の館 (創元クライム・クラブ)作者:倉阪 鬼一郎東京創元社Amazon おそらく現時点での倉阪ミステリの最高峰。年末の「このミス」で何位になるか楽しみ。ありとあらゆる叙述トリックが鏤められていて、さながら叙述トリック展覧会みたいだが、それでいて…
やられたっ! これは叙述トリック? いえいえそうではありません。むろん勝手に誤解したこちらが悪いのだが、このエンディングは、個人的には、ちょっと改蔵の最終回を思わせる衝撃だった。 その中でストーリーが発展していくかに見えた北海道の小都会は、実…
ボードレールの散文詩「異邦人」に触れている高遠先生のブログを見ていて思い出したことがあるのでちょっとメモ。まず問題の散文詩を福永武彦訳で引く。 異邦人 ――君は一体誰が一番好きなんだ、え、謎のような男よ? 父親か、母親か、妹か、それとも弟か? ―…