2003-07-01から1ヶ月間の記事一覧
「時間のパラドックスについて」…これは澁澤龍彦の『思考の紋章学』に収録されている名エッセイであるが、本書『澁澤さん家で…』で描かれた澁澤像は、まさにこの「時間のパラドックス」の体現ではないかと思う。 本書の全体は内容的に三つのパートに分けられ…
同様のことを中村真一郎も彼の著書『文章読本』のなかで述べている。文章読本という、いわば文章のお手本集の中に鮎川哲也の文章を入れるというのも相当な見識ではあるが、そこで彼は鮎川は鷗外に学んでいるのではないか、とまで言っているのだ。鮎川が引用…
巌谷小波お伽文庫はまだ出てこない。代わりに今度は角川文庫版の『黒いトランク』が出てきた。この本の天城一の解説は天下の名解説だと思う。拙豚は寡聞にして、これほど鮎川作品の魅力を的確に述べた文章を他に知らない。角川文庫も手に入れ難くなっている…
本の山を崩しながら大和書房版『巌谷小波お伽文庫』を探していたら唐突にマーヴィン・ケイのアンソロジー"Devils & Demons"が出てきた。何を隠そう、この本こそが、6月5日の日記に書いたモーリス・ルヴェル女性説の元凶でなのである。そういうわけで、いのも…
・・・えーまあこのようにして、「いのもけ」が出るまで、「ゴドーを待ちながら」よろしくむだ話を続けていくわけなのであるが、それはともかく、「稲生物怪録」と「草迷宮」との構成上の顕著な違いは、「物怪録」では化物屋敷の中で物語が終始するのに対し…
過去放たれてきた未知谷の数々の好企画のなかでも、この本は間違いなく最上の一冊だろう。こんな本はなかなか現われるものではない。出版まもなくして既に時間を超越した存在感を持っている。 横島昇氏による匂いたつような訳文がまた素晴らしい。端正な文章…
…えーそういうわけで、なるべくシブサワ引力圏から離れたところで「草迷宮」を改めて読んでみようと思う。拙豚にとって「稲生物怪録」とは、そのタルホヴァージョンに他ならないから、あえてタルホ的に「草迷宮」を読む。 ところで、「ランプの廻転」におけ…
「稲生モノノケ大全」が待ちどおし。本来ならばこの手の感想は読後に書くのが普通なれど、待ちきれなさのあまり、出版前に書いてしまうなり。マー賑やかし、前夜祭のたぐいと思ってくださればよし ところで拙豚が「稲生物怪録」を知ったのは稲垣足穂経由であ…
*エリアーデ幻想小説全集〈第1巻〉1936‐1955作者: ミルチャエリアーデ,Mircea Eliade,住谷春也,直野敦出版社/メーカー: 作品社発売日: 2003/07メディア: 単行本 クリック: 9回この商品を含むブログ (19件) を見る* 「ホーニヒベルガー博士の秘密」と対をな…
…そうして、二人の女性に見放された時間軸Ⅱの世界は崩壊の一途をたどる: 右の物語の数ヵ月後に私はまたS通りを通りかかった。十七番地の家は取り壊し中だった。鉄格子はところどころ引き抜かれており、泉水はがらくたの軽馬車や敷石でふさがっていた。私は…
…エリアーデ小説の中を流れる重層化された時間は、エリアーデ本人にとっては自然なものなのだろうが、われわれがそれを実感するのは難しい。それを何とか体験(追体験)する一つの方法として、中井英夫『悪夢の骨牌』をとっかかりにしてみようと思う。この『…
エリアーデの幻想小説としての処女作『令嬢クリスティナ』が伝統的コードに則った端正な吸血鬼小説であったのに対し、次いで発表された『蛇』は早くも作者の本領が全開発揮されていて、「エリアーデ小説」としか名づけようのないものになっている。そのおお…
ついに出た! これを快挙といわずして何といおうか。 この第I巻では、長編の初訳は「蛇」のみ(ちょっとさびしい)。他はすでに単行本のある「令嬢クリスティナ」「ホーニヒベルガー博士の秘密」「セランポーレの夜」。それらに加えて、われらがマタドール小…
*ブラッディ・マーダー―探偵小説から犯罪小説への歴史作者: ジュリアンシモンズ,Julian Symons,宇野利泰出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/05メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (4件) を見る* この本では「犯罪小説」という語がかな…