翻訳雑談

ハンチバック

今回の芥川賞は市川沙央氏の『ハンチバック』という作品に決まったという。おめでとうございます。それとはまったく関係ない話だが、このハンチバック (ドイツ語のBucklige) という言葉ほど翻訳するときに困る言葉はない。このことは『イヴのことを少し』を…

同人誌丸出し

最近はDeepLも改善されてきて、すくなくとも徳井や山里が「そうですね」「そうですね」と無意味な相槌を打つことはなくなった。しかしあいかわらず珍妙な翻訳を返してくることに変わりはない。近来の傑作はこれ。 Es scheine sich um einen ganzen Klüngel g…

フラクトゥール

今読んでいるのはドイツで1951年に出た稲生平太郎ばりの神秘小説。しみじみした佳作なので、コロナがいい塩梅に収まれば秋の文学フリマに出そうかなとも思っている。 上の画像はこの本の一部だが、ごらんのとおり、フラクトゥールというドイツ特有の字体で書…

奇しき因縁

www.youtube.com このブログを見てくれている人のなかでニュー・トロルスというバンドをご存知の方はどれくらいいるだろう。オーケストラと共演している『コンチェルト・グロッソ』というアルバムで有名なイタリアのプログレッシブロックバンドである。それ…

楕円の顔

小説を読んでいると、美女の形容として、「楕円(Oval)の顔」というのがたまに出てくる。このブログで去年とりあげた『最後の審判の巨匠』にもこの形容があった。そして今翻訳している小説にもこの形容が出てくる。常套句というほどではないにせよ、少なくと…

大宇宙の危機

これは8月23日の日記の続きです。 むかしむかし、某社のバラード短編全集のどれかの巻で、スケジュールが押せ押せになって、編集部総出でようやく地球の運命が救われたことがあったそうです。しかし今回のボルヘスのケースはさらにすごくて、5月出版の契約…

ストルルソンの怪

ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』を読んだ人なら、冒頭近くに「スノッリ・ストルルソン」という「十二世紀アイスランドの有名な著者」の名が出てくるのを覚えておられるかもしれない。ところが岩波の世界人名大事典には、この名が「スノッリ・ストゥルトル…

シブサワさんなら喜ぶかも

とある碩学が澁澤龍彦の初期の訳文をこんなふうに批判している。 「外面如菩薩内心如夜叉とは、あたしのことなんだから(tu sais que la fausseté s'allie avec mon masque et mon caractère.)」 澁澤訳は、成句をつかいそこねて原意を伝えず、有害な仏臭さ…