齋藤磯雄

ニコといえば堀口大学

昨日の日記ではニコの名を引き合いに出したが、日本でニコといえば何はともあれ堀口大学であろう。このあだ名はコクトーがつけたという説もある。堀口の翻訳書から無理やり一冊選ぶとするなら、たぶん『酔ひどれ船』(伸展社 昭和11年)になると思う。次点は…

訳詩ことはじめ

何の因果か訳詩を大量にするはめになった。長く生きているといろいろ珍しい経験をするものである。 まず思い知ったのは訳詩というのは不可能な企てだということだ。意味だけ訳しても何にもならない。古代ギリシアである哲学者が「人間とは二本足の羽のない生…

見えるが見えない骸骨

一月ほどまえに出たレヴォカシオン最新号に「賓客」(カチュール・マンデス)という面白い短篇が載っている。訳者は頼まれた翻訳をすっぽかしてパリに逃げたという噂の(あくまで噂にすぎないけれど)T氏。齋藤磯雄のリラダンを思わせる高雅な文章は、ひとと…

叙述トリックの創始者

ボードレールの散文詩「異邦人」に触れている高遠先生のブログを見ていて思い出したことがあるのでちょっとメモ。まず問題の散文詩を福永武彦訳で引く。 異邦人 ――君は一体誰が一番好きなんだ、え、謎のような男よ? 父親か、母親か、妹か、それとも弟か? ―…