東京創元社

名連載の有益性

これは前にも書いたかもしれないけれど、連載小説をリアルタイムで読んでいく楽しさはまた格別である。というのは、次の号が出るまで、これからストーリーがどう展開していくかをノンビリ考える時間があるから。たとえばほら、「読者への挑戦」がある推理小…

『偽悪病患者』

少し前の角田喜久雄に続いて今度は大下宇陀児の短篇集が創元推理文庫で出た。全二巻の傑作選になるらしく、その前篇にあたる『偽悪病患者』は初期の名作を集めている……とつい書いてしまったが、名作というよりはむしろ怪作奇作実験作と呼んだほうが適切かも…

本邦初訳じゃないでしょ

ツイッター情報によれば綺想社というところからキラ=クーチの短篇集が出るらしい。「よしとに on Twitter: "アーサー・キラ=クーチ幻想綺譚集 壱『黒い鏡』 発行 : 綺想社 価格 : 5,000円 販売開始日:2022年7月3日 平井呈一も、愛した名匠 "Q"「魔法の影法…

『吸血鬼ラスヴァン』

吸血鬼ラスヴァン: 英米古典吸血鬼小説傑作集作者:G・G・バイロン,J・W・ポリドリ東京創元社Amazon 夏来健次さんのことだから! きっと何かやるだろうと思っていたら! 期待にたがわずやってくれました。この本の掉尾を飾る「魔王の館」の(そういっては失礼…

『サラゴサ手稿』ついに完訳

岩波書店のツイッターによれば、『サラゴサ手稿』が畑浩一郎氏の訳で九月から刊行されるという。これはめでたい。千夜一夜物語にならって何重もの入れ子構造をもったこの作品は、そのテキストもガラン版、マルドリュス版、バートン版などが並立する先輩並み…

樋口有介氏を悼む

うしろから歩いてくる微笑 柚木草平シリーズ (創元クライム・クラブ)作者:樋口 有介東京創元社Amazon 遅ればせながら『このミステリーがすごい』を購入して作家近況の欄を読んでいたら、樋口有介氏のところに「十月に逝去」と書いてあった。えっまさか、ブラ…

マッケンの事

藤原編集室のツイートによれば、平井呈一訳マッケン短篇集が近々創元推理文庫から出るという。やれうれしや。同文庫『怪奇小説傑作集1』で「パンの大神」を読んだときの衝撃は今でも忘れがたい。「恐怖は人類最古の感情である」というラヴクラフトの言葉を…

本の雑誌9月号

北原尚彦さんが大活躍しているという噂の『本の雑誌』9月号を買ってきた。なるほど大活躍だ!国書刊行会、早川書房、東京創元社三社の中の人による座談会によると、国書の豆本等のプレゼントがあると真っ先に応募してくれるのが北原さんだそうだ。いつもあ…

全部買ってもいい

東京創元社さんから60周年記念ブックケースをいただきました。どうもありがとうございます。売り上げに全然貢献していない、それどころかきっと足を引っ張っているであろうわたしにまで下さるとは恐縮です。カシオの電子辞書がちょうど入る大きさなので重宝…

『幽霊島』の刊行に寄せて

幽霊島 (平井呈一怪談翻訳集成) (創元推理文庫)作者:A・ブラックウッド他東京創元社Amazon あなたが一流のレストランに行ったとしよう。コースを一通り堪能し、コーヒーを啜りながら、「ああ美味かった」と味を反芻しているとしよう。そんなときシェフが不意…

大いなる野望

ミステリーズ! Vol.96作者: 西崎憲ほか出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2019/08/09メディア: 単行本この商品を含むブログを見るじゃーん! 来月出る「ミステリーズ!」8月号にレルネット=ホレーニアの短篇が載ります。版元サイトの内容紹介欄でも堂々と…

ギョ~ルゲ~

方形の円 (偽説・都市生成論) (海外文学セレクション)作者:ギョルゲ・ササルマン東京創元社Amazon 不思議な魅力のある本が出た。どこか外国の、大きすぎも小さすぎもせず治安もまずまずの町に着いて、ひとまずホテルにチェックイン、さてこれから行き当たり…

忖度から始まった

創元の話題が続くが、「日本の創作推理小説は忖度から始まった!」と名うって東京創元社は「日本探偵小説全集」を大々的に宣伝してはどうだろう。 忖度ばやりの昨今受けると思うのだけれど……。まあ老舗がそんなえげつないことはやるわけはないか。それに最新…

泡坂快進撃

去年から今年にかけて、河出文庫(『毒薬の輪舞』『死者の輪舞』『迷蝶の島』『妖盗S79号』『花嫁のさけび』)、新潮文庫(『ヨギ・ガンジーの妖術』)、徳間文庫(『奇跡の男』)と、泡坂作品の復刊が著しい。こんな活況を老舗創元が指をくわえてながめてい…

乱歩趣味

世界推理短編傑作集5【新版】 (創元推理文庫)作者: 江戸川乱歩出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2019/04/24メディア: 文庫この商品を含むブログを見る 戸川安宣氏によってリニューアルされた『世界推理短編傑作集』がつつがなく完結したことを喜びたい。…

わが創元推理文庫神7(その5)

創元推理文庫は全集の宝庫でもある。とくに和物探偵小説の分野でそれは顕著で、『土屋隆夫推理小説集成』とか、『中村雅楽探偵全集』とか、『天藤真推理小説全集』とか、『渡辺温全集』とか、『大坪砂男全集』とか、はては『高城高全集』とか、正気の沙汰と…

わが創元推理文庫神7(その4)

創元推理文庫はアンソロジーの宝庫でもある。永遠のロングセラー(たぶん)『世界推理短篇傑作集』『怪奇小説傑作集』を除けても『恐怖の愉しみ』とか『怪談の悦び』とか『淑やかな悪夢』とか『日本怪奇小説傑作集』とか『秘神界』とか、あるいは七年前の「…

わが創元推理文庫神7(その1)

東京創元社2019年新刊ラインナップ説明会で北村薫氏と宮部みゆき氏が創元推理文庫の神7作品を選んでいた。それを見ると自分でも選んでみたくなった。 ただし選出にあたっては次の縛りを入れる。 東京創元社オリジナルであること。(つまり既に他社で出た本の…

登場人物表のパラドックス

煙で描いた肖像画 (創元推理文庫)作者:ビル・S. バリンジャー東京創元社Amazon 今はむかし、世紀の変わり目前後に、ミステリ系サイトが栄えた一時期があった。実をいうとこの「プヒプヒ日記」もそれら先輩サイトに刺激を受けて生まれたものだ。ところが栄枯…

ミステリーズ!

ミステリーズ! Vol.88作者:樋口 有介ほか東京創元社Amazon 「ミステリーズ!」の4月号を開いてビックリ。巻末の名物コラム「レイコの部屋」に、盛林堂書店の小野純一さんが登場してるではありませんか。西崎憲さんの読みきり短篇「黄燈紅燈」と並んで今号の…

対決の書

綺想宮殺人事件作者:芦辺 拓東京創元社Amazon 【「新青年」版】黒死館殺人事件は刊行一週間足らずで在庫が底をつき各書店で品切れとなり、版元はあわてて重版に踏み切ったそうだ。あの価格にしてこの売れ行きなのだから、よほど皆が待ち望んでいた本だったの…

『怪奇礼讃』礼讃

怪奇礼讃 (創元推理文庫)作者: E・F・ベンスン他,中野善夫,吉村満美子出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2004/07/31メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 9回この商品を含むブログ (19件) を見る創元推理文庫の怪奇幻想部門は、かって背中に帆船マークがあっ…

創元夏のホンまつり

創元 夏のホンまつりに行ってきました。ここの建物は何年か前に一度お邪魔したことがあります。階数は同じくらいですがこちらはエレベーターがあるのであまり高楼という感じはしません。ゴシック叢書など企画するには不利な環境かも。でも資料室はちょっとヴ…

ホムワトスン問題

まるで天使のような (創元推理文庫)作者:マーガレット・ミラー東京創元社Amazon まだハイデガーを読んでいるが、今回の話はどうハイデガーに関係するのかまったく不明。それというのもハイデガーの本は読んでいると様々な思考を誘発されるのだ。そう書くと何…

ナイショの話

両シチリア連隊作者:アレクサンダー・レルネット=ホレーニア東京創元社Amazon ここを見ている方だけにそっとお教えしましょう。 実は、二年前に出た世紀の奇書『両シチリア連隊』はすでに版元品切れなのです。もう店頭在庫しかありません。というか(少なく…

蒐集と喪失と

12人の蒐集家/ティーショップ (海外文学セレクション)作者:ゾラン・ジヴコヴィッチ東京創元社Amazonこの本はいい。まず訳文がいい。重訳というのは非難されがちだけれど、本書にかぎっては大成功していると思う。というのも、本書の文体のまれに見る清澄さは…

天然叙述トリック

*赤い右手 (創元推理文庫)作者: ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ,夏来健次出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2014/11/21メディア: 文庫この商品を含むブログ (13件) を見る* 『赤い右手』の文庫版が出た。 これは実にハラハラドキドキさせる小説だ。…

人は死んでいるけど

昨日届いたSRマンスリーの394号は森英俊氏インタビューと東京創元社特集という豪華二本立てで読み応えたっぷり。森氏インタビューによれば、なんでも『失われたミステり史』を出した盛林堂書房から、「以前に出た『少年少女昭和ミステリ美術館』で採りあげ…

最近のうれしいニュース2つ

ボスフォラス以東唯一ともいわれるバベルの図書館分館からメールあり。シュオッブ全集に入れる作品をまた増やすことにしたらしいです。なんと、本国版全集(Les Belles Lettres版やPhebus版など)にさえ入っていない作品も収録される模様。以下メールマガジ…

Flos Vacui

*胸の火は消えず (創元推理文庫)作者: メイ・シンクレア,南條竹則出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2014/02/28メディア: 文庫この商品を含むブログ (6件) を見る* たとえばH.R.ウェイクフィールドの書くものは良くも悪くも怪奇小説だけれども(「だから…