『アエネーイス』の三種の訳

ラウィーニア (河出文庫)作者:ル=グウィン,アーシュラ・K.発売日: 2020/09/08メディア: 文庫 ル=グウィンの『ラウィーニア』が文庫になった! 拙豚はル=グウィンはほとんど読んでいないのだが、読んだ中で一番好きなのはこれだ。訳者あとがきにはウェルギリ…

早稲田古書街散策

ひさしぶりに高田馬場駅でおりて早稲田古書街へ行く。まずは駅前の芳林堂書店。なんと海外文学の棚がひどく縮小され、片隅に追いやられている。あたかも「銀の仮面」に出てくる老婦人のごとし。それでもきっと書店員の方の矜持があるのだろう、厳選されたい…

本の雑誌10月号

「すごい机の写真が載っている!」と巷で話題騒然の「本の雑誌」10月号を買ってきた。 たしかにすごい! 机の写真にも驚いたが、もっと驚いたことがある。突撃インタビューのトップバッターに、特に名を秘す版元の、特に名を秘す編集者の方が登場している。…

得体の知れないインタビュアー

Q&A作者:恩田 陸発売日: 2004/06/11メディア: 単行本 以前宮部みゆきの『理由』をこのブログでとりあげたとき、何者ともわからないインタビュアーによるインタビュー形式がこの作品を成功させていると書いた。同じく「何者ともわからないインタビュアー」が…

まだ佐野洋を読んでいる

まだ佐野洋を読んでいる。佐野洋というのはなにしろ読んだとたんにキノコの惑星のごとくスカーと忘れられるので、何度でも読み返しがきく。 でも何度読んでも面白い。土屋隆夫や天藤真の作品集成を出すという偉業を成し遂げたS元S理文庫はなぜ佐野洋に目をつ…

不思議な印刷ミス

手持ちの辞書に不思議な印刷ミスがあるのに気づいた。買ったのは何年も前だが、印刷ミスに気付いたのはつい最近のことだ。 下の画像を見てほしい。"demetritorio" の "de" のところが破れているのが見えると思う。拙豚が破ったわけではない。最初から破れて…

チャンドラーのベストとワースト

レイモンド・チャンドラーの残した七つの長篇のうちのベストといえば、『長いお別れ』であるのは衆目の一致するところだと思う。数年前の日記に書いたような、いくつもの解釈ができる余韻あるラストもいい。それから文章もいい。片岡義男氏と鴻巣友季子氏の…

「深い健康」

怪談入門 (平凡社ライブラリー)作者:乱歩, 江戸川発売日: 2016/07/08メディア: 文庫 9月2日の日記で触れた「人間性という地獄の劫火」と、ペアのように思い出される乱歩の言葉がある。「石子責め、鋸引き、車裂きなどの現実を享楽し得るものは、神か無心の…

『短編ミステリの二百年 3』

小森収氏編纂の『短編ミステリの二百年』(創元推理文庫) は早いものでもう第三巻が出た。しかも巻を重ねるごとに分厚くなっていく。あまりのボリュームに圧倒されて一巻からずっと積んだままにしてある。 ずっとペースを乱さずに着々と(読むのが追いつかな…

『つわものども』

第一級の天才を持つ、小説を書くために生まれてきたような作家が書いた小説を読むのはなんと楽しいことだろう。ウォーもまさしくそうした作家のひとりで、読む前から面白さは保証されているようなものである。 主人公ガイ・クラウチバックは由緒ある旧家の末…

ひたむきな三島由紀夫(2)

幻想小説とは何か: 三島由紀夫怪異小品集 (906) (平凡社ライブラリー)作者:由紀夫, 三島発売日: 2020/08/27メディア: 新書 ……『幻想小説とは何か』の東さんによる解説を読んだら、本来は評論の部が巻頭に来るはずが、版元のアドバイスで今の形になったという…

ひたむきな三島由紀夫(1)

「折ふし夕べにシャーロック・ホームズを思う/これはわれわれに残されたよい習しだ (Pensar de tarde en tarde en Sherlock Holmes es una / de las buenas costumbres que nos quedan.)」とボルヘスは歌った。ならば折ふし夕べに三島を思うことも、われわ…

元祖オレオレ詐欺

オレオレ詐欺の歴史は古い。旧約聖書によれば、モーセが神に「民にあなたの名を何とお伝えしましょうか」と聞くと、神は "I am what I am. (欽定訳では I am that I am)"と答えたそうだ(出エジプト記3:14)。この英訳は直訳すると「わたしはわたしであると…

『幻想と怪奇』3号

各所で話題騒然の『幻想と怪奇』3号を買ってきた。 巻頭80ページあまりの平井呈一特集は圧巻で、これだけでも十分にもとはとれるが、さらに圧巻なのはそれに続く短篇群である。実にみごとなアンソロジー(精華集)になっている。アンソロジーのテーマはいわ…

ディスプレイ用書籍

神保町の北澤書店がディスプレイ用書籍に力を入れ始めたという噂を聞いてさっそく行ってみた。ここの二階に足を運ぶのは何年ぶりだろう。いや何十年ぶりかもしれない。どうもあの威圧するような雰囲気が苦手なのである。大昔には店頭平台に特価本のコーナー…

本の雑誌9月号

北原尚彦さんが大活躍しているという噂の『本の雑誌』9月号を買ってきた。なるほど大活躍だ!国書刊行会、早川書房、東京創元社三社の中の人による座談会によると、国書の豆本等のプレゼントがあると真っ先に応募してくれるのが北原さんだそうだ。いつもあ…

後悔しない秘訣

昨日の日記で「いつなんどき変な圧力がかかって出版差し止めとか回収とかになるかもわからないから」と書いたが、これはすなわち、「あとで後悔しないよう今のうちに買っておく」という意味である。買って後悔するか、買わずに後悔するか、これは千古不易の…

超自然的恐怖原理主義者たちに抗して

巷で「ホラーより怖い」と人気大沸騰中なようなので拙豚も一本を贖った。いつなんどき変な圧力がかかって出版差し止めとか回収とかになるかもわからないから。 もしかすると超自然的恐怖原理主義者の方々から、「こんなものをホラーと呼ぶとは何事ぞ! 恐怖…

謎のDeepL

巷で噂のDeepL翻訳をちょっと使ってみた。 原文 Y hasta podría pensarse que lo más importante de esa obra, salvo que todo es importante, es - la amistad de Virgilio y de Dante; porque Dante sabe que él se salvará, y sabe que el otro está cond…

紙片は告発する

ディヴァインは好きな作家だ。社会思想社のミステリボックス時代にはよく読んだ。でも長いあいだ作者は女性かと思っていた。女性が視点人物になることが多いし、女性の心理描写に容赦がなく、また往々にしていかにも女性作家らしい結末で締めくくるから。実…

ライノクス殺人事件

シンプルなトリックを圧倒的なケレン味で包み込む、日本でいえば、『○○○○○○○○殺人事件』を連想させるような作品。ちなみに『○○○○○○○○殺人事件』は評価が真っ二つに分かれた問題作だが拙豚は傑作と思う。『ライノクス』もこれと同じくらいに、読者の目をくら…

探偵を捜せ!

有名な作品だが今回初めて読んだ。舞台は山の上に一軒だけ建つ山荘。その管理人は急用のため山荘を去り、客のウェザビー夫婦と小間使いだけが残された。ウェザビー夫人は遺産目当てに夫を殺してしまう。ところが夫は死ぬ直前に、探偵を雇ってここに来るよう…

水平線の男

何を隠そう、拙豚は還暦をとうに越えた爺である。いかに爺かというと、こんな ↓ 本が新刊書店で買えたほどの爺なのである。 これを買ったのは岡山の細謹舎という書店だ。今はもう跡形もないけれど、半世紀前は(丸善や紀伊国屋なんかのチェーン店を除けば)…

100%アリバイ

「異色作に名作なし」といわれる。どうにも褒めようがなくて困ったときは「問題作」とか「異色作」とか「この著者のファンなら必読」とか評してお茶を濁すものらしい。果たしてこの本の帯にも「異色作」と書いてある。「探偵小説の常識をくつがえす異色作」…

おうむの復讐

外出自粛をいい機会に、本の整理をぼちぼちと進めている。ただ面白そうな本が発掘されると読みふけってしまうので整理は遅々として進まない。むしろ散らかる一方ともいえよう。発掘された本の一冊がこれ ↓ 、アン・オースティンの『おうむの復讐』である。こ…

アトム式

むかしむかし、今は亡き安原顕氏が仕切っていたころのメタローグから『私の外国語上達法』という本が出ていた。その中でちょっと名を思い出せない英文学者の方が「アトム式」という方法を紹介していた。このアトムというのは例の鉄腕のではなくて学生社から…

『怪と幽』4号

怪と幽 vol.004 2020年5月 (カドカワムック 828)作者:京極 夏彦,小野 不由美,有栖川 有栖,恒川 光太郎,近藤 史恵,山白 朝子,荒俣 宏,小松 和彦,諸星 大二郎,高橋 葉介,波津 彬子,押切 蓮介,東 雅夫発売日: 2020/04/28メディア: ムック 『怪と幽』4号で荒蝦…

ロバート・フリップ「白鳥の湖」を踊る

ロバート・フリップ 「白鳥の湖」を踊る www.facebook.com ロバート・フリップ 薔薇の花をくわえてタンゴを踊る www.facebook.com ロバート・フリップ 蜜蜂になって走り回る www.facebook.com いずれもトーヤのフェイスブックより。amass.jp経由で知った。蜜…

アヤナミとぞうさん

戒厳令の中でも、わが家近くのブックオフは果敢に店を開け続けている。今日はそこで上 ↑ のようなCDを買った。クレジットによると1975年のレディングフェスティヴァルでの録音らしい。"Last Bundle"とはいうもののアラン・ホールズワースはもういなくてギタ…

小説がヘタなわけではない

ゴーレム (白水Uブックス)作者:グスタフ・マイリンク発売日: 2016/09/14メディア: Kindle版 念のため見たら白水Uブックスの『ゴーレム』も今は電子書籍でしか売っていない。しかしこの本は何度か版を重ねたのではなかったか。『ゴーレム』といい『ワルプルギ…