2021-01-01から1年間の記事一覧

泰平ヨン最後の事件

大方の予想を裏切り快調なペースで刊行が続くスタニスワフ・レム・コレクション。早くも第二回配本として今回一番の目玉ともいえる『地球の平和』が出た! いうまでもなく泰平ヨンシリーズ唯一の未訳作品である。 この作品には『大失敗』のようなハードSF的…

『記憶の図書館』が「今年の三点」に

記憶の図書館: ボルヘス対話集成作者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス,オスバルド・フェラーリ国書刊行会Amazon 本日付朝日新聞の読書欄「今年の三点」で福田宏樹記者が『記憶の図書館』を挙げてくださいました。ありがとうございます。なんとうれしいクリスマスプ…

黒鳥忌に寄せて

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)作者:中井英夫講談社Amazon 「黒鳥忌に寄せて」というものの、黒鳥忌すなわち中井英夫の命日は十二月十日だったから、もう二週間くらいも過ぎてしまった。『虚無への供物』をはじめて読んだのは高校生のころ、講談社…

まるでフランセス・イエイツのような

ヒュパティア:後期ローマ帝国の女性知識人作者:エドワード・J・ワッツ白水社Amazon あちこちで好評でたちまち重版したという噂の『ヒュパティア 後期ローマ帝国の女性知識人』を遅まきながら買って一読してみた。なるほど面白い。注釈などを除いた本文だけで…

樋口有介氏を悼む

うしろから歩いてくる微笑 柚木草平シリーズ (創元クライム・クラブ)作者:樋口 有介東京創元社Amazon 遅ればせながら『このミステリーがすごい』を購入して作家近況の欄を読んでいたら、樋口有介氏のところに「十月に逝去」と書いてあった。えっまさか、ブラ…

『土のひとがた』いよいよ発売

ながらく待った『土のひとがた』が、来月発行との報に接する。おおいよいよ! 何を隠そう拙豚は縁あってゲラを発行前に見せてもらっている。これまで訳されたキャベルの中でいちばん面白いといっても過言ではない(いちばん遠くまで行くのはおそらく「月蔭か…

鏡と翻訳は忌まわしい

ひとつ前の記事で彼自らが語っているように、ノーマン・トマス・ディ・ジョヴァンニのボルヘス英訳はあまり評判がよくない。原文にあまり忠実ではなく、勝手に表現を変えたりしているというのだ。ところがボルヘス自身はそれを気に入っていたらしい。なぜだ…

全員一致の夜

ボルヘスの短篇「円環の廃墟」の冒頭に、"la unánime noche" という、直訳すると「全員一致の夜」になる謎の言葉がある。今福龍太氏に『ボルヘス 伝奇集 迷宮の夢見る虎』なる好著があるが、その第五章「夢見られた私」で、この不思議な形容が考察されている…

うじうじと悩む話

この前『都筑道夫の読ホリデイ』を通読したことを日記に書いた。この本を読むと当然のことながら都筑のミステリ好きが感染して、創元推理文庫や早川ポケミスを読みたくてたまらなくなる。折よく荻窪の古書ワルツに『細い線』が置いてあったので買ってきた。…

米澤屋書店

米澤屋書店作者:米澤 穂信文藝春秋Amazon 米澤穂信さんが新刊『米澤屋書店』で、わたしが昔訳した『両シチリア連隊』を紹介してくださっています。それも「詩のように美しい滅びの小説」という絶妙な評言とともに。米澤さん、ありがとうございます。この本は…

第二の迷楼記

荻窪の古書ワルツで『山口剛著作集』全六巻を千八百円で買いました。つまり一冊三百円です。しかも帯が多少日焼けしてくたびれている他は一度も読まれていないような美本で月報完備。いったい何がどうなっているのでしょう。嬉しいことは嬉しいけれど、碩学…

読ホリディ

都筑道夫の読ホリデイ 上巻作者:都筑 道夫フリースタイルAmazon いま書いているペルッツ新企画のあとがきで『都筑道夫の読ホリデイ』を参照する必要が出てきて手にとったのが運の尽き、その面白さに引きずりこまれてたちまち上下巻を読破、あとがきは一向に…

在庫の減りが速くなった

本の雑誌462号2021年12月号本の雑誌社Amazon 最近やけに『記憶の図書館』のアマゾン在庫の減りが速いなと思っていたら、『本の雑誌』12月号で藤ふくろうさんがこの本を紹介してくださっていたことが判明した。ありがとうございます! こんな高価な本をボンボ…

スミス魔境へ行く

かつて斯界を驚嘆させた松本零士イラスト入りハヤカワSF文庫からおよそ半世紀の星霜を経て、ついにノースウェスト・スミスがふたたび新訳でよみがえった。喜ばしいではないか。 帯には「伝説的スペースオペラ・シリーズ」と書いてあるが、単に宇宙は舞台にな…

死せる生田生けるプヒ氏を走らす

その後また三日月書店に走り生田旧蔵書を今度は八冊買ってきた。死せる生田、生けるプヒ氏を走らす。 生田といえばある種の人たちには蛇蝎のごとく嫌われているらしい。むかし『東京人』だったかの神保町古書店特集で某老舗古書肆の店主がインタビューされて…

三日月書店に走る

フランス語の入荷がありました。マッコルラン、ジャリ、ドールヴィイなど。 pic.twitter.com/1wUlqCB8md— 三日月書店 Mikazuki Books (@mikazuki_books) 2021年11月5日 何ですとマッコルラン、ジャリ、ドールヴィイですと! まるで某書刊行会のようなライン…

『記憶の図書館』刊行記念対談

「週刊読書人」11月5日号に西崎憲さんとのボルヘス対談を載せていただきました。対談を企画してくださった週刊読書人のNさん、お相手してくださった西崎さんに感謝です。「週刊読書人」らしからぬ非常にゆるい対談なので気軽に読んでいただければと思います。…

無神論者の聖書

もう三十年以上も昔の話になるけれど、ある日曜日の朝、クリスチャンの友人に誘われて教会に説教を聞きに行ったことがある。教会で説教を聞いたというのは後にも先にもそのときだけである。説教壇に立った牧師さんが聖書の一節を引用しそれに元に講話を述べ…

怪作コレクション堂々開幕

まずは帯に目をみはる。どなたが編集を担当されたかは存じあげないが、「天下のシブサワが敬意を表しているのだからお前らも皆こぞって敬意を表するがよい!」と言わんばかりの帯ではないか。もちろん不肖わたくしも敬意を表するにやぶさかではない。はるか…

ペルッツ新企画

レオ・ペルッツの新企画を準備中。来春にはお目にかけられるはず。— 藤原編集室 (@fujiwara_ed) 2021年11月2日 そうなんです。ペルッツ新企画が水面下で着々と進行してるのですよ。十月三十日の日記で書いた「ものすごい掘り出し物」とは、実はこの新企画に…

神保町ブックフリマ2021

きょう開催の神保町ブックフリマ2021の国書刊行会ブースで、『記憶の図書館』が出ていたと風の便りに聞く。そんな~出たばかりの新刊を~値引き販売するとは~あまりにむごい仕打ちでは~と訳者としては思う。そもそも定価で買ってくれた方々に失礼ではない…

『怪奇骨董翻訳箱』風前の灯か?

怪奇骨董翻訳箱 ドイツ・オーストリア幻想短篇集国書刊行会Amazon アマゾンの『怪奇骨董翻訳箱』が在庫切れを繰り返していて、なんとなく版元在庫も切れかけてきたような雰囲気を醸し出しています。『ワルプルギスの夜』に続いてもうすぐお陀仏になる気配が…

風の便り

キャベル某作品のゲラが届いたらしいことを風の便りに聞く。おお、いよいよ!

怒りをどこに

記憶の図書館: ボルヘス対話集成作者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス,オスバルド・フェラーリ国書刊行会Amazon 『記憶の図書館』が高すぎるというお便りをときどきもらいます。しかし、しかしですよ、誰も儲けてなんかいないんです。わたしのもらう印税は微々たる…

在庫大復活! / アンチクリストの誕生

アンチクリストの誕生 (ちくま文庫)作者:ペルッツ,レオ筑摩書房Amazon 『記憶の図書館: ボルヘス対話集成』のアマゾン在庫が大復活いたしました。皆様こぞってご注文ください。「国書の新刊はしょっちゅう順位三桁になっている」(版元談)そうなので、この…

いきなり正誤表が出たっ!

『記憶の図書館』は幸いにして好評で、アマゾンの在庫がアッというまに空になりました。今日明日あたり補充が入るそうなのでなにとぞ注文をお願いします。もちろんhontoや紀伊国屋や楽天などからも注文可能です。ただなにしろ元々の部数が少ないので、早めに…

アマゾンで販売開始!

記憶の図書館: ボルヘス対話集成作者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス,オスバルド・フェラーリ国書刊行会Amazon 『記憶の図書館』がアマゾンで販売を開始しました。お買い上げいただければありがたいです。 税込み定価は訳7500円と、一見お高いようではあります。…

驚異のいいね数

国書ツイッターの『記憶の図書館 ボルヘス対話集成 』新刊案内告知が膨大な数の「いいね」やリツイートを集めています。もし「いいね」をしてくれた方が全員購入したなら初版が一瞬でなくなるくらいの驚異の「いいね」数です。 皆さま応援ありがとうございま…

『かわいい女』再説

エラリー・クイーン 創作の秘密: 往復書簡1947-1950年作者:ジョゼフ・グッドリッチ国書刊行会Amazon ダネイは1949年4月12日付の書簡で、チャンドラーの『かわいい女』(『リトル・シスター』)をくさしてこう書いている。「一体全体、これは何についての話…

リーの貢献

『十日間の不思議』は『九尾の猫』や『悪の起源』よりずっと優れた作品に思われる。中心アイデアは『悪の起源』に劣らず突拍子もないものだが、舞台と人物がそのアイデアにしっくり溶け合っているからだ。近隣との交渉もあまりなさそうな地方都市に植民地開…