ボルヘス

検閲を歓迎(?)するボルヘス

小鷹信光氏といえばハードボイルドの名翻訳者・研究家として有名だが「ポルノ」という略称を日本語に定着させた人でもある(どこかの出版社が週刊新潮の氏の長期連載「めりけんポルノ」の完全版集成を出さないものだろうか)。その背景にはかのオリンピア・…

ふたたびタレコミあり

金沢から戻ってきた人からふたたびタレコミあり。昨日孫引きで引用したラルボーの書評は、その全文が国書刊行会『ボルヘスの世界』に高遠弘美氏の訳で載っているという。どれどれと見てみると本当にあった。 この『ボルヘスの世界』という本は、二十年以上前…

ボルヘス『審問』に驚くラルボー

先週の洋書まつりで買った本の中にヴァレリー・ラルボーの伝記があった。謎のダブリ本の群れの中の一冊である。著者はベアトリス・ムスリという人で1998年にフラマリオンから出ている。この本によればボルヘスはラルボーに『審問』を献呈したらしい。『続審…

Capicua

またボルヘスが訳せるといいな、今度は伝記を訳したいなと思いながら未練がましく西和大辞典をぱらぱらめくっているとcapicuaなる変な単語に出くわした。 ようするに岡嶋二人の山本山コンビみたいに、逆から読んでも同じになる単語や数字のことを言うらしい…

海外で絶讃される国書本

アルゼンチンの代表的日刊紙「クラリン」で、国書版『記憶の図書館』が記事になりました(昨年12月4日付)。アルゼンチン大使館のサイトにもニュースとして出ています。「クラリン」の記事は結構な分量があって、書影も大きく載っていて、この国書版が出たこ…

『記憶の図書館』が「今年の三点」に

記憶の図書館: ボルヘス対話集成作者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス,オスバルド・フェラーリ国書刊行会Amazon 本日付朝日新聞の読書欄「今年の三点」で福田宏樹記者が『記憶の図書館』を挙げてくださいました。ありがとうございます。なんとうれしいクリスマスプ…

鏡と翻訳は忌まわしい

ひとつ前の記事で彼自らが語っているように、ノーマン・トマス・ディ・ジョヴァンニのボルヘス英訳はあまり評判がよくない。原文にあまり忠実ではなく、勝手に表現を変えたりしているというのだ。ところがボルヘス自身はそれを気に入っていたらしい。なぜだ…

全員一致の夜

ボルヘスの短篇「円環の廃墟」の冒頭に、"la unánime noche" という、直訳すると「全員一致の夜」になる謎の言葉がある。今福龍太氏に『ボルヘス 伝奇集 迷宮の夢見る虎』なる好著があるが、その第五章「夢見られた私」で、この不思議な形容が考察されている…

『記憶の図書館』刊行記念対談

「週刊読書人」11月5日号に西崎憲さんとのボルヘス対談を載せていただきました。対談を企画してくださった週刊読書人のNさん、お相手してくださった西崎さんに感謝です。「週刊読書人」らしからぬ非常にゆるい対談なので気軽に読んでいただければと思います。…

アマゾンで販売開始!

記憶の図書館: ボルヘス対話集成作者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス,オスバルド・フェラーリ国書刊行会Amazon 『記憶の図書館』がアマゾンで販売を開始しました。お買い上げいただければありがたいです。 税込み定価は訳7500円と、一見お高いようではあります。…

驚異のいいね数

国書ツイッターの『記憶の図書館 ボルヘス対話集成 』新刊案内告知が膨大な数の「いいね」やリツイートを集めています。もし「いいね」をしてくれた方が全員購入したなら初版が一瞬でなくなるくらいの驚異の「いいね」数です。 皆さま応援ありがとうございま…

註の数

www.youtube.com Youtubeにアップされた『七つの夜』の元講演と後に書籍化されたテキストを比べると、あちこちで細かな推敲がなされているのがわかる。たぶんこの時期 (1970年代) にはボルヘスは自分で校正刷りをチェックしていたのだろう。だが1985年に一冊…

大宇宙の危機

これは8月23日の日記の続きです。 むかしむかし、某社のバラード短編全集のどれかの巻で、スケジュールが押せ押せになって、編集部総出でようやく地球の運命が救われたことがあったそうです。しかし今回のボルヘスのケースはさらにすごくて、5月出版の契約…

『記憶の図書館』アマゾンで予約開始

記憶の図書館: ボルヘス対話集成作者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス,オスバルド・フェラーリ国書刊行会Amazon 『記憶の図書館』のアマゾン予約がはじまりました。国書税厳しき折、恐縮ですがなにとぞご自愛を、じゃなくてもしよろしければ購入していただければと…

『記憶の図書館』カバー公開

山田英春氏のツイッターでボルヘス+フェラーリ対話集成『記憶の図書館』のカバーが公開されました。対談相手をつとめたフェラーリ氏もこのカバーを見て、「とてもオリジナルで美しさにあふれたカバーだ。東洋からのまたとない贈り物だ。カバーの真ん中にあ…

現代科学で解明できない念波

『あくび猫』には不幸の手紙のことばかり書いてあるわけではない。「本は積んでおくだけで勉強になる」とも書いてある。 この怪現象の説明として、積んだ本からは現代科学では解明できない念波が出ていて、それを受信することで脳細胞が活性化されるのだと一…

八十歳からの外国語

「ことばのたび社」というところがチェコ語の講座を始めたらしい。価格も手ごろだ。ちょっと心が動くではないか。だが己の記憶力にいまひとつ自信が持てずなかなか踏み切れない。 そういうとき思い出すのはボルヘスである。ボルヘスが日本語を習い始めたのは…

単に掌の上で

たまには宣伝を。 今月末に出る『ナイトランド・クォータリー vol.24』にアルヴィン・グリーンバーグ「ホルヘ・ルイス・ボルヘスによる『フランツ・カフカ』」が拙訳で載ります。この短篇はむかしむかしハリー・ハリスン、ブライアン・W・オールディス共編の…

ボルヘス、噴飯文庫本を評す

『ファンタジウス・マルレア』の話が出たついでに関連した話題をひとつ。2016年に噴飯文庫の一冊として出たH.G.ウェルズ『星の児 生物学的幻想曲』(このブログでの感想はここ)を、やはり当時の新刊だった『クローケー・プレイヤー』といっしょにボルヘスが…

元祖オレオレ詐欺

オレオレ詐欺の歴史は古い。旧約聖書によれば、モーセが神に「民にあなたの名を何とお伝えしましょうか」と聞くと、神は "I am what I am. (欽定訳では I am that I am)"と答えたそうだ(出エジプト記3:14)。この英訳は直訳すると「わたしはわたしであると…

ボルヘスとフォークランド紛争

年配の方はご存じだろうが、今から四十年ほど前、フォークランド紛争というものがあった。アルゼンチンの沖合にフォークランド諸島というちっぽけな島々があり、ここは昔から領有権がはっきりしていなかったようだ。というか、イギリスとアルゼンチン双方と…

ネクロノミコンはなかった

マドリッドのパリぺブックスなる版元が『ボルヘスの書棚』なる本を出したことをたまたま知り、すかさず注文した。 届いたのはかなりの大型本だ。どのくらい大きいかがわかるように隣に荒俣御大の『世界幻想作家事典』を置いてみた。『書物の宇宙誌―澁澤龍彦…

ぬか漬けのきゅうり

少女地獄 (夢野久作傑作集) (創元推理文庫)作者:夢野 久作東京創元社Amazon 吾妻ひでおの『アル中病棟』によると、アル中になった人の脳は、ぬか漬けのきゅうりが生のきゅうりに戻らないように、もとに戻ることはないのだという。アル中ならぬミステリ中毒の…

みえすいた嘘

ボルヘス『伝奇集』:迷宮の夢見る虎 (世界を読み解く一冊の本)作者:今福 龍太発売日: 2019/12/13メディア: 単行本今福氏のボルヘス本のどこがいいのか。今まで必ずしも十分に論じられていなかった詩作品が俎上にあげられているのも嬉しいし、「読書家ボルヘ…

ボルヘスとパンデミック

殉教 (新潮文庫)作者:由紀夫, 三島メディア: 文庫三島由紀夫の中篇『三熊野詣』に自分の周りをアルコールで丹念に拭きまくる老歌人が出てくる。巷の噂では折口信夫がモデルらしい。むかし読んだときには「えらい神経質な人だな」としか思わず、変な人を見る…

MONKEYの探偵特集

MONKEY vol.20 探偵の一ダーススイッチパブリッシングAmazon ボルヘスはマリア・エステル・バスケスとの対話でこんなことを言っています。 ボルヘス ……第二に(これははるかに大切なことですが)探偵小説は特殊なタイプの読者を作りあげたのです。つまり、わ…

最後的対話

中国の本もずいぶん手に入れやすくなった。なにしろアマゾンでぽちっとするだけでいいので止められない止まらないである。装丁もひところにくらべればずいぶんと垢ぬけてきたと思う。で、最近買ったのがこの『最後的対話』の二冊。この本は英独仏西版がすで…

ライバルはバベルの図書館

ちょっと必要があってスタニスワフ・レムの『神はタオイストだろうか』を引っぱりだしてきた。これはレム自身の著作ではなく、レムの編んだ幻想小説アンソロジーである。このドイツ語版は1988年に出ているが、ポーランド語版も出ているかどうかはよくわから…

老いてますます本を買うこと

ちょっとしたきっかけがあってハイデガーに凝るようになり、木田元やスタイナーの解説書を手始めに、本人が書いた本もわからぬながらパラパラめくっている。わからないといっても、いい新訳が出ているおかげもあって、昔よりはわかる(ような気がする)。か…

大積読者

ボルヘス,オラル (叢書アンデスの風)作者:ホルヘ・ルイス ボルヘス書肆風の薔薇Amazon 大読書家ボルヘスは同時に大積読家でもあった。しかも、「いつかは読む」という口実さえない純粋積読者だった。ウソじゃないよ。七九歳のときの講演録『ボルヘス・オラル…