大積読者

 
大読書家ボルヘスは同時に大積読家でもあった。しかも、「いつかは読む」という口実さえない純粋積読者だった。ウソじゃないよ。七九歳のときの講演録『ボルヘス・オラル』に次のようなくだりがある。

わたしは今でも盲目でないふりをして、本を買い込み、家中を本で埋め尽くしている。先だっても、一九六六年度版のブロックハウスの百科事典を贈物にいただいた。家の中にその本があることがはっきりと感じられ、わたしは一種の至福感を味わっていた。二十数巻の書物がそこにあるのだが、今のわたしにはそのゴシック文字は読めないし、そこにはさまれている地図や図版を見ることもできない。それでも、書物はそこにあった。わたしは書物から放たれる親しみのこもった重力のようなものを感じていた。人間が至福感を得る可能性はいろいろあるだろうが、書物もまたそのひとつであるとわたしは信じている。

「今でも盲目でないふりをして(Yo sigo jugando a no ser ciego)」というのはなんという美しいフレーズだろう。ここにはあのチャールズ・ラムの「子供がいるふりをして」いる美しい小品を思わせるものがある。それに、jugarはもともと「遊ぶ」という意味であるから、このフレーズは「今でも〈盲目でない〉ごっこをして」という風にも解せるように思う。