ネクロノミコンはなかった

マドリッドのパリぺブックスなる版元が『ボルヘスの書棚』なる本を出したことをたまたま知り、すかさず注文した。


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届いたのはかなりの大型本だ。どのくらい大きいかがわかるように隣に荒俣御大の『世界幻想作家事典』を置いてみた。『書物の宇宙誌―澁澤龍彦蔵書目録』のような網羅的なリストを期待したが、それはなかった。蔵書から百冊か二百冊程度選んで写真にとっただけのものだ。言っちゃなんだが、この写真を撮った人はあんまり本に詳しくないような気がする。ディスプレイ業者ならピックアップするだろうなと思うような本が主にピックアップされているから。おしゃれなグラビア雑誌で読書特集をやるときみたいな雰囲気も感じさせる。ありふれたエヴリマンズ・ライブラリの一冊をさも大変な稀覯書のように仰々しく写してるページなどちと恥ずかしい(それでもボルヘスはライプニッツをエヴリマンズ・ライブラリで読んでいたのか!という驚きはある)。もちろんボルヘスが盲目になった原因といわれる『ネクロノミコン』などあるべくもない。しかし書き込みが判読できる程度の鮮明さで写っていて興味津々である。あとボルヘスの依拠したテキストがどの版のものかわかるのでその意味では貴重な本である。


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英語の本についてはおそらく珍しい本はないような気がする。大半の本は神保町あたりの洋書店を回ればどこかの棚にあるようなありふれた版である。だがそこがいい。弘法は筆を選ばずというではないか(ちょっと違うかも)。なによりボルヘスが愛読したのと同じ版が容易に手に入れられるというのがうれしい。