ゲラが紛失する話


もうすぐ『イヴ』の再校ゲラが来るはずだ。来たら赤字を入れて送り返すのだけれど、こんなときいつも思うのは「これ途中で紛失したらどうしよう」ということだ。

わがゲラはたいてい赤字が死ぬほどたくさん入るので、もし紛失したら記憶で全部再現できる自信はない。だから翻訳を始めてしばらくの間は念のために全ページスキャンしてから送っていた。だが面倒なので最近はやっていない。もっとも幸いにして、今までゲラがなくなったことは一度もない。

「ガール・ミーツ・シブサワ」という小説がある。主人公は女性編集者で、開巻一ページ目でゲラが紛失する。それも著者校の入った赤字ゲラである。うわっまずいな見つかるのかな、見つかればいいなあと他人事ながら心配になる。でも場面はたちまち変わって学生時代のいじめの話になり、その後の展開はもはやゲラどころではない。結局最後までゲラはどうなったのかわからない。見つかったのかな。見つかったらいいんだけれど。いやそういう小説でないのは重々承知はしているけど……