ミステリーズ!

 
「ミステリーズ!」の4月号を開いてビックリ。巻末の名物コラム「レイコの部屋」に、盛林堂書店の小野純一さんが登場してるではありませんか。西崎憲さんの読みきり短篇「黄燈紅燈」と並んで今号の目玉といえましょう。その内容については、「ミステリーズ!」の売り上げを妨害してはいけませんのであえて触れますまい。各自買ってお確かめくださいますよう。

でもひとつだけ紹介しますと、盛林堂書店は、何億円だか何千万円だかは知りませんが、さすがの東京創元社もアッと驚いて腰を抜かすくらいの年商を誇っているのだそうです。やはり探偵小説愛好家の方々は珍書稀書には金を惜しまないとみえます。
 
ところがわたしはといえば、売り上げにはまったく貢献していません。買うのは主に店頭の百円均一本です。お勘定のときに思わず「安い本ばかり買ってすみません」と謝ると、小野さんは「いいんですよ」と優しく許してくれました。

ついでに掘り出し物を一冊紹介させてください。何を隠そう、この本です
 

これは古本ナイアガラという委託販売のコーナーで、「フォニャルフ」という人が売っていたもので、たしか値段は700円でした。わたしが盛林堂で買う本としては高値な部類に入ります。

これは実は、むかし筑摩書房から出た「澁澤龍彦文学館」の最終巻、『最後の箱』に登場した幻の本なのですよ。編者の松山俊太郎による同書解説より、この本に触れたくだりを引用しましょう。

〈澁澤龍彦文学館〉では、詳細な注記や原文の併載はおこないにくいので、専門家に不満足な仕事をお願いするのも心苦しく、素人の編者が、恥を覚悟で翻訳をでっちあげることにした。
 
そのため、琳瑯閣書店で、「迷楼記」には国訳があったはずだがと訊ねていたところ、たまたま来店された、漢籍和訳史研究の第一人者でもあられる、中国文学の大家・飯田吉郎先生に紹介の栄を享け、貴重な教示を賜ったばかりか、後日、大正末期に刊行された、編訳集『迷楼記』の関係箇所をコピーで贈与されるという、望外の恩恵に浴した。
 
この唯一の国訳は――目下紛失中のため訳者も刊記も不明であるが――敷衍があるかと思えば省略が多く、厳密には〈翻訳〉の名に値しないものである。(以下略)

この、「目下紛失中のため訳者も刊記も不明」な本こそ、わたしが盛林堂で拾ったこの本なのでした。奥付を見るとたしかに大正末期に刊行されていますので、まず間違いはありますまい。