ギョ~ルゲ~

 
不思議な魅力のある本が出た。

どこか外国の、大きすぎも小さすぎもせず治安もまずまずの町に着いて、ひとまずホテルにチェックイン、さてこれから行き当たりばったりにあちこち回ろうか、といったようなわくわくした感じがこの本にはある。

しかし、観光にしてもこの本にしてもそうなのだが、あちこちを見物していくうちに、だんだんと景色より歴史に圧倒されるようになる。短めの短篇として語られる『方形の円』の諸都市は、どれもその分量に似合わない遥かな時間を内包している。

カルヴィーノの『マルコ・ポーロの見えない都市』はおそらくは全部同じ都市(つまりヴェネツィア)のさまざまな相を語った物語だと思うが、この『方形の円』はもちろんそんなことはない。個々の都市は時間的にも空間的にも孤立して遠く隔てられている。

そこからただちに光瀬龍の描く諸都市が連想される。東キャナル市とか、ヴィーナス・クリークとか、木星のプランクトン・シティとか、あるいは、パッチワークで作られようとしていたアイララのレプリカとか。どの都市にしても、この『方形の円』のなかで語られていても違和感がないではないか。

「ギョルゲ」という作者の名もいい。佐藤有文の世界妖怪図鑑にでも出てきそうな響きだ(実際はたぶん「ジョージ」のルーマニア語読みにすぎないのだろうけど)