泡坂快進撃

去年から今年にかけて、河出文庫(『毒薬の輪舞』『死者の輪舞』『迷蝶の島』『妖盗S79号』『花嫁のさけび』)、新潮文庫(『ヨギ・ガンジーの妖術』)、徳間文庫(『奇跡の男』)と、泡坂作品の復刊が著しい。こんな活況を老舗創元が指をくわえてながめているわけはない。くそう負けてなるものかとばかりに、超弩級の二冊をぶつけてきた!

泡坂妻夫引退公演 手妻篇 (創元推理文庫)

泡坂妻夫引退公演 手妻篇 (創元推理文庫)

泡坂妻夫引退公演 絡繰篇 (創元推理文庫)

泡坂妻夫引退公演 絡繰篇 (創元推理文庫)

発売してまだ二週間ほどだが、すでに版元のサイトでは「在庫僅少」になっている。売れ行き絶好調と見える。やはり泡坂人気は根強いと痛感した。

この二冊は単行本未刊行作品を集成したもの、と書くとあたかもマニア向けの本のようであるが、まったくそんなことはない。泡坂はまだ読んだことがありません、という人にも最適の一冊、ではなくて二冊である。

嘘だこれはステマだと思う人は、ともあれ「手妻篇」の「未確認歩行原人」を読んでほしい。このムチャクチャな(しかしすばらしく丹念に伏線が敷かれた)足跡トリックに魅せられたあなたは、すでにして泡坂ファンである。『奇跡の男』に収録された「ナチ式健脳法」と並ぶ二大泡坂足跡トリックですねこれは。おそらく前代未聞の動機がどちらの作品をも輝かしいものにしている。

その他にも、作者手書きの見取り図が付された堂々たる本格巨編「酔象秘曲」、パターン化されたフォーマットが楽しい亜智一郎もの、職人譚にしっとりとした日常の謎を絡ませた絡繰篇【紋】パートの諸短編、バカバカしすぎるショートショート「母神像」など、バラエティ豊かに取り揃えられていて、泡坂世界の豊饒さがコンパクトに楽しめる好著だと思う。