遅ればせながら『このミステリーがすごい』を購入して作家近況の欄を読んでいたら、樋口有介氏のところに「十月に逝去」と書いてあった。えっまさか、ブラックユーモアにしてもたちが悪すぎる、と思いつつネットで調べてみたら、本当に逝去されていた。なんということだろう。つつしんで哀悼の意を捧げたい。
柚木草平ものは『彼女はたぶん魔法を使う』で瞠目して以来、主人公の私立探偵のモテモテぶりが読んでいて楽しくて、新作が出るたびに買って読んでいた。結果的にシリーズ最終作となってしまった『うしろから歩いてくる微笑』は最後がホラーで終わっていて、次はどうなるのだろうとドキドキしていたのに……。いやホラーといっても別に超自然現象が起こるわけではなくて、柚木草平があまりにもモテモテで、そのモテモテぶりがこの小説のラストでは恐怖にまで達しているのである。
本格ミステリ的に見て一番面白かったのは中編集の『不良少女』だった。作者本人は「中短篇は苦手」とあとがきで書いているのだけれど、なかなかどうして、この本に収められているのはプロットを一ひねりひねった野心的な作品ばかりだ。殺人が起こる前に柚木草平が犯人を指摘する話もある。というか、柚木草平の推理が原因となって、殺人が起こってしまうのである。この転倒ぶりはまるでメルカトル鮎ではないか！
幸いにして柚木草平もの以外はほとんど未読なので、これからぽちぽち読んでいこうと思う。
