ヴィクトリアンに歩調をあわせて

Early German and Austrian Detective Fiction: An Anthology

Early German and Austrian Detective Fiction: An Anthology


次号のROMの特集は、小林さんの希望どおりにヴィクトリアン・ミステリになった。前号のフィルポッツ特集では寄稿をさぼってしまったので、今度こそは何か書きたい。いい機会なので、ヴィクトリア朝と同時代の独墺ミステリを集中的に読んでみるつもり。

ヴィクトリア朝というのは1837年から1901年まで続いたそうだ。ファイロ・ヴァンスも愛読していたハンス・グロースの『予審判事便覧』がオーストリアで出たのが1893年だから、イギリスがヴィクトリア朝であった期間に、オーストリア犯罪学の揺籃期から一応の完成までがすっぽり入ることになる。

ROMの古い号で紹介されていた"Early German and Austrian Detective Fiction: An Anthology"は、この時代のミステリのよい手引き書だ。この本で教わった作家の一人、アウグステ・グローナーは、英訳がプロジェクト・グーテンベルクに入っているので、まず手始めにのぞいてみた。メロドラマ性が適度に抑えられているせいか、けして古びておらず、今読んでも十分面白い。
福本義憲氏の評言「底辺に生きる人々の社会環境や心理状態を描き出していく。そして、犯罪者の心の底に渦巻く葛藤にも温かい眼差しを向けるのである」どおりの、後味のよいミステリだった。