100%アリバイ

 
「異色作に名作なし」といわれる。どうにも褒めようがなくて困ったときは「問題作」とか「異色作」とか「この著者のファンなら必読」とか評してお茶を濁すものらしい。果たしてこの本の帯にも「異色作」と書いてある。「探偵小説の常識をくつがえす異色作」と書いてある。あまり安易にくつがえしてほしくはないが……



読んでみたらなるほど異色作だった。ノックスの『陸橋殺人事件』や『まだ死んでいる』に似た味わいを持っている。人を喰ったような幕切れは「放心家連盟」をも連想させる。江戸川乱歩が乱歩賞の某候補作を「冗談小説」と評したことがあるけれど、これも冗談小説以外の何物でもないと思う。

なにしろ『木製の王子』みたいに、どの容疑者も分刻みの正確なアリバイを持っている。検死官も一、二分くらいの幅で死亡時刻を推定してみせる。世の常のアリバイトリック小説をおちょっくているような気もする。

英国流のねじくれたユーモア感覚が肌にあわない人は、読んで怒りさえするかもしれない。でもそこがいい。犯人が自分でアリバイトリックを(それも世にも下らない駄トリックを)いかにも得意げにペラペラ喋るあたりに、イギリス風ユーモアの真骨頂が光る。まあ何というか、フレンチ警部や鬼貫なら嫌になって事件を投げ出したくなるくらいの駄トリックなのである。それも素人の考案ならまだしも救われるが、このトリックを仕掛けたのは一種のプロだ。ともかく真面目な人が読むものでは絶対にない。