ROM最新号

ROM最新号はデューセの翻訳をはじめとして、いつもにもまして読み応えがある。

なかでも驚いたのは森英俊氏の「Book Sleuth」という連載。今回は山中峯太郎編〈ポー推理小説文庫〉なる珍本がとりあげられているが、これがすごいのなんの。たとえばこのシリーズでは「盗まれた手紙」は、「盗まれた秘密書」というタイトルでリライトされているらしい。森氏の解説から引用すると、

……もともとの作品は手紙の意外な隠し場所を謎の中心に据えたもので、巧妙なトリックが用いられているのはご存知のとおり。ところが『盗まれた秘密書』では、トリックのミスディレクションとして、さらなるレッドへリングやガジェットが用いられているのである。そのうちひとつは人物に関するもので、驚くべきことに前作『モルグ街の怪声』自体が伏線として機能していたことが判明する。ネタばらしになるのでくわしくは書けないが、要するに、ある人物が作中で果たしている役割が、『モルグ街の怪声』と『盗まれた手紙』ではまったく異なるのだ。そのため、予備知識をもって読むと、すっかりだまされることになる。

想像を絶する展開である。さすがはホームズ超訳によって一部で絶大な人気を博する山中峯太郎だ。なかでもすばらしいのは、「予備知識をもって読むと、すっかりだまされることになる」というくだりでありましょう。ミステリにおける騙しのテクニックはいろいろあろうけれど、このような、「原典を読んでいるが故にリライトでだまされる」というのは前代未聞ではないか。

それにしても読みたい! なんとこれはものすごく読みたいことであろうか!(直訳調詠嘆)……論創社さん(名指し)、ぜひぜひこの作品を復刊してください。『怪盗対名探偵初期翻案集』や『守友恒探偵小説選』を出したあなたのところならできないことはないはず!