おうむの復讐

外出自粛をいい機会に、本の整理をぼちぼちと進めている。ただ面白そうな本が発掘されると読みふけってしまうので整理は遅々として進まない。むしろ散らかる一方ともいえよう。

発掘された本の一冊がこれ ↓ 、アン・オースティンの『おうむの復讐』である。この小説は江戸川乱歩と井上良夫との往復書簡でわりといい評価をもらっていたように思う。


実は今回初めて読んだ。いかにもクラシックで、いい意味で絵空事なのが浮世離れしていて大変よろしい。こんな時節に読むには最適の本のような気がする。とある下宿屋で孤独に暮らしている老婆が殺される。この人は体重三百ポンドで体が弱っているため部屋から出られない。大変な資産をもっているらしい。遺言状をしばしば書き換えて下宿の住人を順繰りに遺産相続人にしていくのが趣味(?)である。

この老婆の趣味の設定でもうかがわれるように、作者は別乾坤の物語としての推理小説を書くツボを心得ていて、尋問や捜査の描写がえんえんと続くけれども書き方がうまくて面白く読める。翻訳も悪くない。クラシックミステリの醍醐味を味わえる作風である。そろそろダレてきたかなと思うと新しく事件が起こる、その呼吸なぞうまいものだ。あと老婦人が娘の死んだのを知らなかったとか、部屋を出られないために新しく下宿人が来ても誰だかわからないとか、細かいところがうまく考えられている。

まあ大昔のミステリなんで犯人はバレバレなのだが、逆にいえばそれだけ手がかりがフェアに出されていて好感がもてる。軽本格の秀作といえようか。