あのタイプライターは売れたのか


 

きのうは久しぶりにぽかぽかといい陽気になったので国立まで足を延ばした。まずは三日月書店に寄って豊島與志雄の『秦の憂愁』『山吹の花』他何冊かを買った。勘定のついでにあのアラビア語タイプライターは売れましたかと聞いてみると売れなかったそうだ(みんな見る目がないね。自分も買わなかったけど)。

しかし今回の洋書まつりはいつになく大勢の人出があったという。円安で洋書が高くなったため古本に走るのかと聞いてみると、田村書店さんが大量の出品をしたせいもあるのではという答えだった。角砂糖に蟻が群がるようなものかもしれない。

豊島與志雄はこれまで読んだことはなくて、わずかに太宰治の文章を通してその人柄を知るのみだった。今回はじめてぱらぱらとめくってみると「人恋しさの文学」ともいうべき味がある。『秦の憂愁』は連作短篇集で秦啓源と波多野洋介という二人の男との交渉を描いている。『山吹の花』中の同題の短篇は娘に死なれ愛人に去られる話。