2021-01-01から1年間の記事一覧

悪の起源

エラリー・クイーン 創作の秘密: 往復書簡1947-1950年作者:ジョゼフ・グッドリッチ国書刊行会Amazon 続いて『悪の起源』のところを読む。この長篇をむかし読んだときは、結末で明かされる贈り物の意味にあぜんとして、今でいうバカミスではないかと思った。…

エラリーより名探偵

『記憶の図書館』は発売日を待つだけになり、もう一つの長篇(「君は貴族社会を生き抜くことができるか?」みたいな話)のほうも訳了したので、ヤレヤレとほっとして ずっと積読にしていた『エラリー・クイーン 創作の秘密』を手にとった。とりあえず『九尾…

夏休みの宿題 (ほとんど) 終わる

今日とある長篇の翻訳を送稿して、夏休みの宿題が (ほとんど) 終わりました。「ほとんど」というのは、まだちょっと残っているのがあるのですね。 それにしてもコロナのせいで終日家にこもっていると恐ろしく仕事がはかどるものです。一か月足らずで長篇の翻…

註の数

www.youtube.com Youtubeにアップされた『七つの夜』の元講演と後に書籍化されたテキストを比べると、あちこちで細かな推敲がなされているのがわかる。たぶんこの時期 (1970年代) にはボルヘスは自分で校正刷りをチェックしていたのだろう。だが1985年に一冊…

大宇宙の危機

これは8月23日の日記の続きです。 むかしむかし、某社のバラード短編全集のどれかの巻で、スケジュールが押せ押せになって、編集部総出でようやく地球の運命が救われたことがあったそうです。しかし今回のボルヘスのケースはさらにすごくて、5月出版の契約…

また佐野洋を読んだ

また佐野洋を読みました。というと「お前は佐野洋しか読むものはないんか~」と呆れられそうですが、いい意味でも悪い意味でも後を引かない、読んだらすぐに忘れられる(というとけなしてるようですが褒めてるんですよ。すくなくとも読後嫌な後味が残る本に…

『記憶の図書館』アマゾンで予約開始

記憶の図書館: ボルヘス対話集成作者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス,オスバルド・フェラーリ国書刊行会Amazon 『記憶の図書館』のアマゾン予約がはじまりました。国書税厳しき折、恐縮ですがなにとぞご自愛を、じゃなくてもしよろしければ購入していただければと…

『記憶の図書館』カバー公開

山田英春氏のツイッターでボルヘス+フェラーリ対話集成『記憶の図書館』のカバーが公開されました。対談相手をつとめたフェラーリ氏もこのカバーを見て、「とてもオリジナルで美しさにあふれたカバーだ。東洋からのまたとない贈り物だ。カバーの真ん中にあ…

キャベツのようなもの

生の館作者:マリオ・プラーツみすず書房Amazon もしあなたの奥さんが薔薇の花の刺繍をしていて、しかしできあがったものが薔薇よりキャベツに似ていたとしたら、あなたはどうしますか。たぶん何も言わないのが家庭の平和のためにはベストだと思いますが、わ…

夏のクラシック怪奇小説フェア

三省堂書店神保町本店二階では今「夏のクラシック怪奇小説フェア」が開催中です。これを選書した人はきっとかなりのマニアだな……日本作家では高原英理さんの本だけがあるのが渋いではないか……と思いながら並んでいる本を見ていたら、版元品切増刷未定になっ…

クラサカ風の館

生の館作者:マリオ・プラーツみすず書房Amazon 倉阪鬼一郎さん、日本歴史時代作家協会賞受賞おめでとうございます! 今日はそれを祝してクラサカ風の館の話をしましょう。 倉阪さんのミステリの中には「立派な館かと思ったら実は〇〇だった」というのが何冊…

ワクチン二回目

昨日19時にワクチン(ファイザー)の二回目を打った。それからもう24時間経過したが腕が痛いほかは副反応らしい副反応は(少なくとも現時点では)出ていない。多くの人に出るらしい倦怠感も発熱もない。まあでも倦怠感が出たということにして今日一日は翻訳…

オリンピックに勝つために

1964年の東京オリンピックの前年1963年に雑誌『マンハント』で野坂昭如が「オリンピックに勝つために」という連載エッセイを書いていた。日本が金メダルをとるにはどうすればいいかという趣旨のエッセイだが、これが60年後の今読むとおそろしく先見的なのだ…

中井英夫「鏡に棲む男」フランス語朗読

本多正一さんから、フランス語版「鏡に棲む男」の朗読がYouTubeにアップされたことを教えてもらいました。これはなかなかのものですよ。 www.youtube.com ちなみにテキストはここにあります。「これがこの人間世界にあっていいことなのか……」という藤木田老…

大辞典への感謝

ここ一年くらい、毎日のように白水社の『スペイン語大辞典』のお世話になっていた。本体25,000円という国書刊行会もビックリの価格だがそれでも割安という感じしかしない。この辞書の特色はなんといっても中南米で使われる意味を丹念に記述していることだ。…

ジャリ全集いよいよ刊行!

『骸骨』、『人狼ヴァグナー』、『「探偵小説」の考古学』、『マルペルチュイ』、『高原英理恐怖譚集成』と、最近の国書刊行会は重量級の本ばかり立て続けに刊行している。「誰が一番分厚い本を出すか」という社内コンクールでもやっているのだろうか。東野…

不幸の手紙異聞

翻訳が滞る訳者に不幸の手紙を送りつけるという、社名は厳秘のとある出版社であるが、先日さらにおそろしい話を聞いた。何十年も前に亡くなった人を降霊術で呼び出してさる文豪の傑作選を編ませるとか、空飛ぶ円盤を真面目に考察した本を出すとか、蠟ででき…

現代科学で解明できない念波

『あくび猫』には不幸の手紙のことばかり書いてあるわけではない。「本は積んでおくだけで勉強になる」とも書いてある。 この怪現象の説明として、積んだ本からは現代科学では解明できない念波が出ていて、それを受信することで脳細胞が活性化されるのだと一…

さらに一日たつと

さらに一日たつと、倦怠感はなくなり、熱も平熱に戻り、筋肉痛も触れば痛い程度まで和らいできた。すると現金なもので、なんとなくあと20年は生きられそうな気がしてきた。ということは、運がよければレムコレクション第二期の完結をこの目で見られるかもし…

科学技術大全

拙豚の住むC市では先般60歳から64歳の者にもワクチン接種券が送付された。幸い予約も取れたのでさっそく昨日第一回目を打ちにいった。ファイザーである。 副反応が出ると聞いていたが昨日の段階では何もなかった。だまされて実は食塩水か何かだったのかと思…

神崎繁旧蔵書

数年前惜しまれながら早すぎる死を迎えた神崎繁の旧蔵書がヤフオクにどちゃっと出るという噂を聞いて及ばずながら参戦した。 当日はあんのじょう壮絶な争奪戦が繰り広げられたのだが、拙豚はあんまり目立たない一山ものに的を絞り、おかげで「51冊一括」とい…

発売即重版!

『裏切りの塔』(創元推理文庫)の重版が決定したそうです。実にめでたい! なぜわたしが知っているかというと、畏れ多くもこの本の解説を書いているからなのですよ。 これが出たのが先月末だから、二週間足らずで重版が決定したことになります。かなり猛烈…

訳詩ことはじめ

何の因果か訳詩を大量にするはめになった。長く生きているといろいろ珍しい経験をするものである。 まず思い知ったのは訳詩というのは不可能な企てだということだ。意味だけ訳しても何にもならない。古代ギリシアである哲学者が「人間とは二本足の羽のない生…

ストルルソンの怪

ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』を読んだ人なら、冒頭近くに「スノッリ・ストルルソン」という「十二世紀アイスランドの有名な著者」の名が出てくるのを覚えておられるかもしれない。ところが岩波の世界人名大事典には、この名が「スノッリ・ストゥルトル…

ボーイ・ミーツ・タネムラ!

澁澤龍彦に女性ファンが群れをなしているのに比べると、種村季弘には、池田香代子氏などの貴重な例外をのぞいては、野郎どもばかり群がっているような印象がある。 なぜだろう? やはりペニスケースをつけて踊ったり、湯上りのセミヌード写真を著者近影に用…

本邦退屈派

調べもののためF図書館に行ったついでに問題の『死火山系』を借りてきた。 この図書館はこの手の本を廃棄処分もせずにわりと残してあるので頼もしい。何年か前に北村薫氏が講演に来ていたので、中の人がミステリ好きなのかもしれない。緊急事態宣言の中にあ…

恐怖の到来

『恐怖 アーサー・マッケン傑作選』を贈っていただきました。どうもありがとうございます。 さっそくぱらぱらとめくってみると、のっけから「よく来られたね、クラーク。ほんとによかった。じつは、時間のつごうがつくかどうか、心配してたんだが。」 「仕事…

悪魔はここに

Re-Clam第六号が到着した。発行者三門優祐氏のエディトリアル・ワークはますます冴えわたり、隅々まで読んで楽しい雑誌になっている。これほどマニアックでありながら、同人誌特有の閉塞感を感じさせず、「ミステリっていいもんだな」と素直に思わせるのは、…

上げ底のヨナス・リー

ヤフオクに出品されているディスプレイ用洋書を見るのが楽しい。もともと本の背表紙を読んでるだけでハッピーになる性格ではあるのだが、ニ十冊千円程度の束の中に貴重な本が混じっているとますます嬉しくなる。 もっとも同好の士は多いとみえて、そんな束は…

尻の火は消えず

12日に文庫解説を送稿し、14日に雑誌小特集のゲラを戻したので、あとは短篇をひとつ訳せば今月の締め切りはオールクリアである。それが終われば夏の終わりまでに長篇をひとつ訳して、漠然としたプランを固めて、それからもうひとつ別の訳書の注と解説がある…