怪作コレクション堂々開幕


 
まずは帯に目をみはる。どなたが編集を担当されたかは存じあげないが、「天下のシブサワが敬意を表しているのだからお前らも皆こぞって敬意を表するがよい!」と言わんばかりの帯ではないか。

もちろん不肖わたくしも敬意を表するにやぶさかではない。はるか昔に出たボリス・ヴィアンやレーモン・クノーの作品集にくらべると、あまりにもこのコレクションの発刊は遅すぎた、と本書を一読後に感じた。

それでもカミやアルフォンス・アレからヴィアンやクノーにいたる、出たとこ任せ無責任放言小説ともいうべき一派の作品が久しぶりに邦訳されたのには諸手をあげて歓迎したい。こういう作風は、受けつけない人はまったく受けつけないだろうけれど、フランスのエスプリの精髄を代表するものには違いない。わたくしが高校生くらいの頃あこがれたフランスというのは、実にこういうフランスであった。

ギュス・ボファというのも胸を締めつける名である。箱の絵はそのギュス・ボファの手になるものであるが、これ実はマンダラゴラなんですよ。信じられます? しかしマンダラゴラがこんなになったのは作者の罪か画家の罪かはにわかには判じがたい。
 

 
そして表紙はビロードの手触りである。フランスの本ではときどき見かけるけれど、日本にもこういう技術を持った職人がいたとは驚いた。
 
解説によれば今後このコレクションには澁澤の「マドンナの真珠」のネタ元になった某作品や、十蘭の「**」のヒントになった某作品も入るらしい。まことに楽しみなことである。