お堀の桜

きのうのですぺらは大入り満員で、あやうく立ち飲みになるところだった。何であんなに小部数しか納入しないのかと怒られた。まさかですぺらで怒られるとは。しかも、きのうのきょうの話なのに、なぜそんなにマッハの速さで伝わりますか? 地獄耳情報網おそろしや。

さる方の絶筆となった小説を読ませてもらった。

 二十一世紀への秒読みが始まった頃の、とある秋の日の午下がり。よく晴れた湿度のひくい日だった。珍しいことに暑がりの弁護士が汗をかいていない。
…(中略)…
 今から三カ月前の、そろそろお堀の桜が開こうという、いともうららかな日の午後であった。

……
「とある秋の日」の三か月前にお堀の桜が咲きますか……いきなり冒頭から叙述トリック仕掛けてますね先生! まさに「本格推理は一行一行が伏線」が持論の方にふさわしい、傑作の香りがぷんぷんする発端ではありますまいか。今となっては結末が永遠に読めないのが残念。

そう言えば別の長編では、都内の公園のベンチで死体が発見されるのだが、そんなところで潮のかおりのする風が吹くのは変じゃないですかと疑問出しをした人がいたそうだ。仮にこの中絶作が出版されるにしても、一見つじつまが合わないところも変にいじらず、そのままの形で発表されることを祈る。

6月8日(日)、西荻ブックマークで元世田谷文学館主任学芸員斉藤直子さんのトークイベントがあります。『坂口安吾展』、『吉行淳之介展』などさまざまな企画を仕掛けてきた方です。