怪訳対超訳


 
酒場でこの本をぱらぱらしていたらアルトー訳エドガー・アラン・ポー「イスラフェル」なるものが出てきた。その凄まじい超訳ぶりにぶっとぶ。日夏耿之介の「イスラフェル」も怪訳だったが、東西激突させたらどちらが勝つか、それはなかなか決定しがたい。

(原詩)

In Heaven a spirit doth dwell
  "Whose heart-strings are a lute;"
None sing so wildly well
As the angel Israfel,
And the giddy stars (so legends tell)
Ceasing their hymns, attend the spell
  Of his voice, all mute.
 
Tottering above
  To her highest noon,
  The enamoured moon
Blushes with love,
  While, to listen, the red levin
  (With the rapid Pleiads, even,
  Which were seven,)
  Pauses in Heaven

日夏訳

そらに庵れる精体の
こころの弦(いと)は箜篌(くご)ぞかし。
イスラフェルほど意のままに
うたふ天使のあらじとよ、
昔がたりに星くづは
ちらめくうたのねをほそみ
かのまじもののこゑをきく。
 
大そらたかくひらめきて
没我のさまの下恋の
嫦娥はおもて赧らめつ
足迅(と)き昴(すばる)七星と
ともにかがやく稲妻は
耳かたむけてきかむとや
半天(なかぞら)たかくとどまりぬ

アルトー訳

天にひとつの心があり、その弦はリュートの魂、
魂の昇らぬところに炎を振り撒いた高い〈精霊〉の魂よ。
〈絶対〉の奥底には選ばれたものたちの突風となった
このリュートの歌より野生の歌はなく
それは天使イズラフェルの心の涙した弦
そしてこの不思議な神託の脈動はさながらシナイ半島
そこで〈無限の愛〉は〈天国〉の縁に炎の手を置いた、
〈大賢人〉の命により無言の歌を歌いながら
天体は陶然となって仰天し
〈高み〉の〈吟遊詩人〉が〈いのち〉で綴る
かつてない慰安の魔法の韻律に耳を澄ます、
 
至上の真昼によろめきながら
月は法悦の激情に高ぶって
見惚れて燃え上がる、魔法の恍惚が
天に満ちてくる、そして〈天使〉に呆れて
星のきらめく七組の合唱隊は広大な七年周期の空間に憩うが
そこでは〈斥候たち〉の沈黙と
古代の跳躍のさなかで彼らのように七回捕まった
濃いスバルの火が結ばれる。

 
…………
アルトー訳は往年の岩谷宏ロック訳詩集を彷彿とさせますね