シアワセじゃあねえっすよ!

「天気はいいし お弁当は美味しいし! シアワセね――」
「シアワセじゃあねえっすよ! すんげ――怒られたんすよ!」  
(xxxHOLiC 3)

先週の土曜、ふたたび消人栓を望む部屋を訪問した。「xxxHOLiC」に出てくる店は一般の人には見えないのだが、この部屋もどうもそんなところがある。他の人にこの部屋は見えているのだろうか?

先に来ていた方の一人が鬼プロの話をしていた。はじめは団鬼六の映画プロダクションの話かと思っていたが、よく聞いてみるとどうも違うようだ。けれどもその苛酷で容赦ない責めは鬼六の世界とさして違わない気もする。でも深く追求するととんでもなく怖い話をされそうなので質問する勇気は出てこなかった。

そうこうするうちに夢たをやかな密咒を誦すてふ犬神のやうな黄老(おきな)がお見えになって、まず"The Masque of Red Death"釈義の続きを話された。

この短篇の初めのほうで、プロスペロ公の性格が"happy and dauntless and sagacious"と形容されている。この部分は「運強く、また勇敢でもあり、怜悧でもあった」(谷崎精二)、「明朗、豪胆、聡明」(八木敏雄)、「幸福で、豪胆きわまりない、賢明な」(富士川義之)といろいろに訳されているが、黄老によると"happy"の訳が全部違っているという。xxxHOLiCのワタヌキのセリフに「シアワセじゃないっすよ」というのあったが、このhappyも「シアワセ」では前後の関係からしておかしい、これは「機敏」という意味なのだという。

帰ってからOEDを引いてみたら本当にそうだった! "happy"の五番目の意義にこうある。

5. a. Successful in performing what the circumstances require; apt, dexterous, felicitous

このうちdexterousがまさに「機敏」だ。そこに挙げられている多数の用例のなかには、スウィフト(1738, "One Gentleman is happy at a Reply; another excels in a Rejoinder")やワーズワース(1806, "Who is the happy Warrior? Who is he That every man in arms should wish to be?")もある。「眼光紙背に徹する」とはいかなることかを改めて思い知らされた夜であった。