使い回しヨク(・A・)ナイ

 
 『某』マイナス三号は平井功の英文学関連論文をお届けする予定。11月11日の文学フリマ刊行を目指して鋭意編集中。

 その論文はポーの謎詩(アクロスティック)を扱っている。アクロスティックとは何かというと、詩の中の文字を一定の規則に従って拾っていくと別の文章が浮かび上がる、われらのクラニー先生が良く使う技法である。

 人も知るようにポーは「暗号術」というエッセイもあり、また自らの編集する雑誌で暗号文を出題し読者に解答を募ったと言われるほどの暗号マニアであるゆえ、こういうアクロスティックを好んで制作してもいささかの不思議もない。こういうテーマに目をつけるのはさすが平井功であるが、彼がポーの秘奥にどこまで迫っているかは、それは読んでのお楽しみ。

 アクロスティック二篇のうちの一篇は閨秀詩人フランセス・サージェント・オスグッド夫人に捧げられている。ポーは雑誌評で夫人の詩をたびたび採りあげ、さかんに褒めたてる。平井によると、

夫人とPoeとの親しい交遊は、間もなく口さがない文人(殊に女文士)の口の端にのぼるやうになり、やがて新聞雑誌を賑はすやうになつた。その矢先を、Poeは過労の結果(一説に飲酒の結果)精神の自制を失つた、四六年六月中旬に、労咳を病むOsgood夫人が養生の為め転地した先を追つて、Rhode Island州Providence、Massachusettess州Boston、同州Lowell の仮寓を、夜中に襲つたりした事件が起つた。

 
おおストーカーまでやったのか。本当にオスグッド夫人に魅了されていたんだなあ、しかし夜中にギョロ目でオデコの酔っ払いに押し入られたら、さぞ怖かろうなあと思いながらなおも平井論文を読んでいくと、こんな文章にぶつかった。

 猶、Mrs. Osgoodに献じたPoeの詩は他に二つある。"To F―"と云ふのがひとつ、"To F―s S.O―d"と云ふのがひとつ。いづれもむかし他の女に献じた詩を些か改めただけのものである。

 
 いかに天下のポーと言えど、こういう使い回しはよくないと思うがどうか。お歳暮じゃないんだから。

それはとても寒いある夜のことでした。
疲れはてた体で、
世に忘れられた本を開いて
ぼんやりしてたとき、
うとうととまどろんでたときに、
ガンガンと戸を叩く音が聞こえてきました
あたしはつぶやきました。
「またあの酔っ払いのストーカーが来たんだわ、
それはただそれだけのこと。ほっときましょう」