ポーと乱歩



ポーといえば乱歩である。少なくとも日本では。その乱歩が、ポーのストーリーを自己流に料理してみたいと思っていたということが、たしか『探偵小説四十年』に書いてあった。それによると、その一つは「ホップ・フロッグ」で、これは「踊る一寸法師」となって結実した。乱歩自身は失敗作として謙遜しているけれど、たとえば飲めない酒をむりやり飲まされるシーンなど、換骨奪胎として第一級のできばえだと思う。若い頃は乱歩自身も酒が飲めなかったらしいので、その鬱屈が投影されているのだろうか。

もう一つは「スフィンクス」で、錯覚の恐怖というべきものをテーマとしたこの短篇はいかにも乱歩好みのストーリーだと思う。「恐ろしき錯誤」という短篇が乱歩にあるが、この「スフィンクス」も言ってみれば恐ろしき錯誤をあつかったものだから。ただし残念ながら、「スフィンクス」の乱歩化はなされなかったようである。

しかしそれらとは別に、『探偵小説四十年』では触れられていないが、実現したいわば第三のオマージュ作品があるのではないか。他でもない、「防空壕」である。読めばわかるように、これはポーのある短篇と大まかなストーリーが同じで、どちらも「〇〇と思ったら〇〇だった!」という恐ろしき錯誤を扱っている。未読の人にネタを割ってはいけないので詳しくは述べないが、これは戦後の乱歩の短篇では出色のできばえであるといっていい、と少なくとも個人的には思う。創元推理文庫版日本探偵小説全集に収録されたのもむべなるかな。