L氏と乱歩

 
「……ポオの短篇の内で、前々から是非使って見たいと思っていた筋が二つある。一つは『ホップ・フロッグ』もう一つは『スフィンクス』である」と乱歩は『踊る一寸法師』の自作解説で述べている。『ホップ・フロッグ』からは『踊る一寸法師』が生まれたが、乱歩版『スフィンクス』はついに書かれなかったようだ。

しかし、それらとは別に少なくとももう一作、乱歩がインスパイアされた、というかオマージュを捧げた、というかリスペクトしたポーの作品があるのではないだろうか。すなわち『眼鏡』である。あからさまにネタバレになるので乱歩版『眼鏡』のタイトルはここでは挙げないが、戦後の佳作の一つに数えられている短篇だ。おお夜の夢こそまこと。

と唐突に書き出したのは他でもない、L氏の評論『文学における不整合性』で『眼鏡』がとりあげられていたからだ。しかしこの評論、あらためて読むと、ちょっと追悼本に入れるべきかどうか悩む。ディックを論じた箇所ではネタが一部「俗物に囲まれた幻視者」とかぶってるし。なによりもう時間がない。

いまさらの話であるが、光文社文庫版全集『孤島の鬼』から「諸事情を慮りあえて削除された一文」を角川ホラー文庫で確認した。なるほど。でもこの一文なら春陽文庫でも残っていたのではなかったかな。それともいま書店にある版では消えてるのだろうか。