吉田訳ポーふたたび

悪漢と密偵さんのツイート(正確にいえば藤原編集室のリツイート)で、吉田健一訳ポーが中公文庫の一冊として出ることを知る。これは近来にない快事だ。世間もようやく吉田訳ポーの凄さに気づいたかムハハハハという感じである。ポー一流の沈鬱かつ淀みない思念の流れが、原文とほとんど等価な感銘を与えるという点で、前にも書いたけれど、数あるポーの邦訳の中でこれ以上のものをわたしは知らない。

ゴシック臭のきつい、佶屈とした、こけ威かしの一歩手前みたいな、おそらく普通の意味では名文とはいいかねるようなポーの文章の底に流れるものをボードレールが感じとったように、吉田健一もまた感じとったのだと思う。いやもしかしたら吉田健一のポー受容はフランス経由なのかもしれない。『マルジナリア』の解説でしきりにヴァレリーを引いているところからもそんな気がしないでもない。もしそうだとしたら、それが吉田訳ポーを他の翻訳と一味違ったものにしているのかもしれない。

次に何か吉田訳を出すとしたら、原作の知名度と親しみやすさから見て『不思議の国のアリス』でしょうか。

 

 
これもなかなか味わい深い訳ですよ。