東雅夫さんのこのツイートにはわが意を得た思いがする。「史上最強」というのはまったく同感。「中学時代、これでポーにハマりました」というのもまったく同じ。
「赤き死の仮面」がにわかに注目をあつめるポオには、戦前から多くの訳書がありますが、一巻本選集で個人的に史上最強だなと思うのが、こちら。集英社から1970年に出た『世界文学全集18 アシャー館の崩壊/黒猫』です。翻訳陣の顔ぶれが凄い。解説は吉田健一。 pic.twitter.com/7s8vbvWY7i
— 東雅夫┃O.Z.N.(おばけずきネットワーク) (@obakezukinw) 2020年2月29日
この本の初版には、中村宏による黄金虫の絵入りの帯がついていて、その「醒めた狂気が」うんぬんというキャッチフレーズにもしびれました。
まあ正確にいえばわたしがこの本でハマったのは吉田健一訳の部分で、いまだにこの人の訳がポーの翻訳では最強と思っている。嬉しいことにこの集英社版には吉田訳ポーのほとんどが収められている。ただ残念ながら「アッシャー家の崩壊」は他の人の訳だ(吉田訳アッシャー家は若草書房版で読める)。
吉田健一のポーの訳しぶりはわたしが翻訳の真似事をはじめたときも、「なるほどこうすればいいのか!」とたいそうな教えを受けた。これは臆測にすぎないが、吉田訳が名訳になったのはボードレールの仏訳をおおいに参照したためではなかろうか。どうもそんな気がする。おそらく仏訳がほどよい解毒剤として作用して(たとえば佐々木直次郎訳みたいに)過度にゴシック風になるのを免れたのではなかろうか。