キィゼヴェッテル『古代楽器史』(?) 

昨日に続いて音楽繋がりで黒死館蔵書の話題を。ただこれも今のところ調査中のメモ。

 所が、キィゼヴェッテルの『古代楽器史』を見ると、月琴(タムブル)は腸線楽器だが、平琴(ダルシメル)の十世紀時代のものになると、腸線の代りに金属線が張られていて、その音が恰度、現在の鉄琴に近いと云うのだがね。そこで、僕はその妖異譚の解剖を試みた事があった。ねえ熊城君、中世非文献的史詩と殺人事件との関係を、此処で充分咀嚼して貰いたいと思うのだよ」(創元推理文庫版p.327)

黒死館にキィゼヴェッテル(あるいはキイゼヴェター)という名の人は二人出てくる。降矢木家図書室の場面(p.339)で名の出てくるオカルティストKarl(あるいはCarl) Kiesewetterと、上記引用部分にあるRaphael Georg Kiesewetter(1773-1850)である。後者のキーゼヴェッターについては音楽の友社「新音楽辞典」には、「オーストリア音楽学者……音楽史および音楽理論における彼の業績は非ヨーロッパの地中海文化の音楽、古代ギリシアの音楽、中世初期からヴィーン古典派までの音楽史に関するもので、≪ヨーロッパ=西洋すなわち我々の今日の音楽の歴史≫≪世俗歌曲の運命と性質≫≪アラビア人の音楽≫などがある」とあり、また、≪ヨーロッパ=西洋すなわち我々の今日の音楽の歴史≫の英訳("History of the Modern Music of Western Europe" translated by Robert Muller, 1848,reprint 1973)の前書きによれば、音楽史研究における先覚者だということだ。
この英訳本(画像左の本)の巻末にはキーゼヴェッターの著作一覧が載っているが、困ったことに『古代楽器史』という本は見当たらない(まあいつものことではあるが……)。また、『ヨーロッパ=西洋すなわち……』および『アラビア人の音楽』は入手し目を通してみたが、「ダルシメル」に関する記述はなかった。
ただし、Caeliaという雑誌に掲載された論文に"Ueber die Musikalischen Instrumente im Mittelalter bis zur Gestaltung unsrer dermaligen Kammer-und-Orchester-Musik"(中世から我々の室内楽およびオーケストラ形成に至る楽器の歴史について)というのがあり、残念ながらまだ見る機会を得ないが、あるいはこれが法水の言う『古代楽器史』にあたるのかもしれない。しかし虫太郎がこういった専門誌の論文を見るチャンスがあったかというと疑問であるし、「古代」と「中世」のずれもあるしで、どうもこの可能性も薄いような気もする〜

(画像右はもう一人のキーゼヴェッター、Karl Kiesewetterの"Faust"