シャルコーの随想?

シャルコー神経学講義

シャルコー神経学講義

 

「だが、例証がない事もないさ。シャルコーの随想の中には、ケルンで、兄が弟に祖先は悪竜を退治した聖ゲオルグだと戯談を云ったばかりに、尼僧の蔭口をきいた下女をその弟が殺してしまった──と云う記録が残っている。また、フィリップ三世が 巴里中の癩患者を焚殺したと云う事蹟を聞いて、六代後の落魄したベルトランが、今度は花柳病者に同じ事をやろうとしたそうだ。それを、血系意識から起る帝王性妄想と、シャルコーが定義を附けているんだよ」(創元推理文庫版p.199)

ここで言われている、「シャルコーの随想」がどういうタイトルなのか。そもそもシャルコーが「随想」と称されるものを書いたのかどうか。それは今のところ調べが不十分でよく分からない。聖ゲオルグの逸話はあまりに虫太郎的でなんとなく捏造臭いが……。

しかし他のところで虫太郎がシャルコーを利用した形跡はあるので、まったくシャルコーを読んでなかったということもなさそうである。シャルコーそのものではなく、シャルコーについて書かれた本かもしれないが……

所が支倉君、眼を覆われて斃される――それが脊髄癆なんだよ。しかも、第一期の比較的目立たない徴候が、十数年に渉って継続する場合がある。けれども、そう云う中でも、一番顕著なものと云うのは、外でもないロムベルグ徴候じゃないか。両眼を覆われるか、不意に四辺が闇になるかすると、全身に重点が失われて、蹌踉とよろめくのだ。それがあの夜、夜半の廊下に起ったのだよ。つまりクリヴォフ夫人は、ダンネベルグ夫人がいる室へ赴くために、区劃扉を開いて、あの前の廊下の中に入ったのだ。(同p.450)

シャルコー 神経学講義』の中にこれに対応するくだりがある。

(前略)純粋な脊髄癆では、患者は歩くとき膝を曲げずに下肢を前に振り出します。(中略)しかし基本的に左右によろけることなく、まっすぐに進みます。(中略)もっとじっくり2人の患者を見てみましょう。(中略)立ち上がってすばやく目を閉じてもらいましょう。目を閉じるとすぐに身体はゆらゆらと揺れて、ついに床に倒れてしまいます。これはもちろん運動失調症の患者で見られるもので、ロンベルグ徴候と腱反射消失の組み合わせです(『神経学講義』p.209)

さて両者の関連やいかに〜 もしかしたら偶然の一致?